ギルガメシュサーガ
第一の粘土板
シュメールの国ウルクの都の王ルガルバンダに息子が誕生した。
母は女神リマト・ニンスン。
ギルガメシュは3分の2が神で3分の1が人間で、アルル女神、太陽神シャマシュ、天候神アダドに祝福されていたので、とても雄々しく、輝かしく、力も優れていたので彼に敵うものはいなかった。
ギルガメシュはウルクの若者をその父親のもとに行かせず、昼も夜も荒ぶり猛り、乙女をその恋人のもとに行かせず、花嫁への初夜権を行使していたのだった。

ウルクの人々は天神アヌに助けを求めた。

空の神アヌは女神アルルに命じた。
「ギルガメシュの荒ぶる心に立ち向かうように。彼らが互いに戦い、ウルクが安息を得るようにするのだ」
 女神アルルは粘土をつまんで荒野に投げて、エンキドゥを造った。彼の全身は女のようなふさふさとした毛で覆われ、裸のままで、人間を知らなかった。
彼は動物たちとともに暮らしていた。
 ある日、狩人が野獣のようなエンキドゥを見つけ、その恐ろしさに驚愕した。
狩人の掘った落とし穴を埋め、罠を壊したのはエンキドゥだった。狩人は父親に相談すると、父はギルガメシュ王に伝えよと言った。

ギルガメシュ王は、「神殿聖娼のシャムハトを連れていき、その服を脱がせ、その豊かな奥処を開かせれば、近づいたその男から獣たちは去るだろう」と伝えた。

狩人がエンキドゥの元へシャムハトを連れて行くと、ギルガメシュの予想通り、エンキドゥは6日7晩、聖娼のシャムハトと交わった。
その後エンキドゥは獣たちの元へ帰ったが、獣たちはエンキドゥに近付こうとしなかった。
彼は自分の獣の力がほとんど失われたことを知った。ただの力の強い人間になってしまったのだった。

野獣の力は失われたが、その代わり、人間として気高く、知恵も広くなったエンキドゥに、聖娼のシャムハトは「お前は賢い神のようになりました。獣たちと野山を彷徨うのはやめて、私と共にウルクの街へ行きましょう。そこには野牛のように乱暴な王ギルガメシュがいるのです」 と言い、エンキドゥはシャムハトの言葉に従った。

その頃、ギルガメシュ王は二つの不思議な夢を見たと、母である女神ニンスンへ告げ、夢の意味を尋ねた。
「何かが、私の上に落ちてきたのです。それを持ち上げようとしても出来ません。また、私はウルクの街に一本の斧が落ちており、私はそれを母上の足元に置いたのです」
 女神ニンスンが夢を解き、息子に告げる。
「友を助ける勇敢な仲間があなたのところにやって来る。そしてその者はお前の対抗者である」

第二の粘土板  (欠損多)
彼(ギルガメシュ)はいたく叫んで、──
 「エンキドゥには対抗できる者がいない。頭髪は解け、──彼(エンキドゥ)は荒野の生まれだ。誰が彼に対抗できよう」
 エンキドゥは立って、彼の言う言葉を聞いた。
 彼は疲れ切て、座って、泣いた。
 彼の眼は涙で溢れた。
 彼の腕はだらりとし、その力は抜けた。  

【ギルガメシュとエンキドゥの戦いはエンキドゥの勝利か?。そして、二人は友になる。  さらにギルガメシュ王が、レバノン杉の森へ遠征し、二人で森番のフンババを倒し、レバノン杉の森を手に入れる相談をする。 紀元前1100年当時、メソポタミア北部のレバノン杉は伐採されつくしていたらしいが、当時の人々にとって、レバノンの杉は貴重な木材だった。ギルガメシュ王も欲しがったのだろうが、そこは恐ろしい森番フンババが守っていたのでギルガメシュ王は単独では勝てないと考え手出しをしなかったのだろう。しかし今、自分と同等の強力な助っ人が現れたので、ギルガメシュは企ての協力をエンキドゥに求めた。  

ところが、エンキドゥは躊躇する。
「レバノン杉の森を守るために主神エンリルはフンババを森の守護者にしたのだ。その声は洪水、その口は火、その息は死である。フンババの森へ入り込む者は、無力が彼を襲うであろう」と。

ウルクの長老会も制止に努める。
 「フンババは600kmの距離からも森のざわめきを聞きつける。その森に入る者を皮膚病が捕らえる。ギルガメシュよ、あなたは若い。心がはやっている」
 

第3の粘土板  (欠損多)
長老たちはギルガメシュを祝福し、
「前を行くものがその仲間を救うだろう。道を知るものはその友を助けるだろう」と助言した。
 「われらが集会で、われらは王としてあなたを信頼した。あなたは戻って、王としてわれらをも信頼して欲しい」

 次にギルガメシュ王はエンキドゥと共に、母神ニンスンに遠征に赴く旨と加護を願い、母神はさらに息子とその友の加護を太陽神シャマシュへ願った。

 

第4の粘土板(欠損多)
フンババの森まで、1日300kmずつ進み、眠る度にギルガメシュ王はシャマシュ神からの神意を受けるため、夢を求める儀式をした。
 1、井戸を掘り、その水で体を浄める。
 2、(欠損)を(欠損)に置く。
 3、近くの山へ登り、太陽神シャマシュへ焼き粉を捧げる。
 4、輪が描かれた中で、眠る。
 5、太陽神シャマシュからの、神意が含まれた夢を見る。

ギルガメシュ王……山が自分の上に落ちてきた。
エンキドゥ……山はフンババであり、落ちるとは、私たちに殺されて倒れる、という意味だろう。

ギルガメシュ王……野牛を捕まえたが、それは叫びで地を割き、巻き起こった砂塵で天が暗くなった。自分がその野牛の前にひざまずくと野牛は自分の手をとってそばに座った。男が現れて立ち上がらせ、皮袋の水を飲ませてくれた。
エンキドゥ……野牛は太陽神シャマシュで、男は父ルガルバンダ。フンババとの戦いで彼等の加護があるのだろう。

ギルガメシュ王……天が叫び、地が吼え、昼は暗闇になった。稲妻と炎が燃え上がり、死が雨のように降り注いだが、やがて火は消えた。
エンキドゥ……神々の威光のさまであるのだろう。

ギルガメシュ王……空を飛ぶアンズー(獅子頭の鷲)がと、恐ろしい顔の怪物が現れたが、若者が現れて怪物を捕らえ、地に投げた。
エンキドゥ……怪物はフンババ、若者はギルガメシュである。

二人がついにフンババの森に着いた。

太陽神シャマシュは、【今なら森番フンババは、森の奥にはいない。強力な7枚の鎧のうち、まだ1枚しか身に着けていない。早く立ち向かうのだ】と天啓を与えた。

しかし、森からフンババの恐ろしい咆哮が聞こえると、ギルガメシュ恐怖にかられ、足が止まってしまった。

エンキドゥはなんとか友を励ましつつ森の入り口へ達し、彼等はしばらく立ち尽くして森を見つめた。

第5の粘土板
「愚か者と武骨者の小わっぱが何をしに来た。父親を知らない雑魚のエンキドゥよ、お前を殺しても名誉にもならぬ、。ギルガメシュよ、わしはお前の喉笛と頸を噛み砕き、肉を駝鳥、鷲、禿鷹に喰わせてやろう」

凄まじい恫喝でギルガメシュは恐怖に囚われたが、エンキドゥはまたしても友を鼓舞する。「友よ、一人では滑りやすい道を歩けないが、二人ならばお互いが助けあい歩けるだろう。獅子も二頭の仔獅子には勝てないのだ」ギルガメシュは友の言葉に勇気を得て怪物に立ち向かった。

戦いに、大地が割け、白雲は黒くなった。
フンババは圧倒的な強さを発揮するが、太陽神シャマシュが二人を加勢する。
13の激しい嵐をフンババにぶち当てたのだ。
東西南北からの風、唸り風、唸唸風、破壊の唸風、悪風、熱風、寒風、魔風、嵐、旋風。フンババは猛烈な嵐に立ち往生し、ついに二人に捕らえられてしまった。
フンババは大層悔しがって、太陽神シャマシュがいなかったら、お前らは負けていただろうと言うが、森の木を全部やるから助けてほしいと懇願する。
 ギルガメシュ王はへりくだったフンババの姦計に惑わされそうになったが、厳しい荒野で育ったエンキドゥは騙されなかった。
ギルガメシュはフンババの頸を撃ち、エンキドゥは心臓を撃った。ギルガメシュの二撃目でフンババは息絶えた。
 二人はレバノン杉の大木を伐採しユーフラテス川に流して運んだ。
途中、エンキドゥは都市国家ニップールに、レバノン杉で巨大な扉を造り、巨大な鳥アンズーを添えて、エンリル神に奉納した。

第6の粘土板
ウルクの街に凱旋したギルガメシュ王の前に、愛と戦争の女神イシュタルが現れて言った。
 「さあ、いらっしゃい、ギルガメシュ、御身は夫になるべきお方。ぜひ、あなたの果実をわが贈り物としておくれ」
しかし、ギルガメシュ王は女神の誘いを拒絶し、彼女の行状を延々と糾弾して こう言い放った。
 「(あなたは)若い頃の恋人ドゥムジを、身替わりとして冥界に送った。いったんは愛したアラル鳥を撃ち、翼を引き裂いた。ペットのライオンに、14個の落とし穴を掘った──若い牧者に飽きれば、狼に変えた。父神アヌの園丁イシュラーヌを誘惑し、私の隠し処に触れてと言いながら、彼をカエルに変えた。私も同じ目にあわせるつもりですか」

それを聞いたイシュタルは怒り狂い、天上の父神アヌに、ギルガメシュから侮辱を受けたと訴えた。
父神はお前が悪いと嗜めたが、イシュタルは聞き入れず、

「お父様、天牛を創って憎いギルガメシュを殺してくれないと、冥府の死者をよみがえらせて生者をかたっぱしから食わせますわよ。そして死者の方が多くしてやるわ」と脅した。

「しかし、娘よ、天牛を創ればウルクに7年の飢饉が襲うことになるのだ」と宥めたが、

イシュタルは「なら、そのあとは私が7年の豊作をお約束しますわ」と切り替えした。

父神アヌは娘神の剣幕と脅しに負け、増長した人間を懲らしめるために、天の雄牛を地上に降ろした。

天牛は地上に降りるとユーフラテス川は深くえぐられ、人々が次々と落ちて行った。エンキドゥが天牛の角を掴み 凄まじい格闘がはじまった。「ギルガメシュ、俺と牛の力は互角だ。俺独りでは殺せない。俺が牛の動きを止めておくから、君が剣でトドメを刺せ」

エンキドゥは天牛の尾をつかみ動きを止めると、ギルガメシュが剣で天牛の急所を次々と刺し貫き、遂に天牛を殺した。そしてその心臓を取り出し、太陽神シャマシュに捧げた。
 ウルクの城壁で眺めていた女神イシュタルは、悔しさのあまり二人を呪った。
その彼女へ、エンキドゥが天の雄牛の腿を引き裂き投げつけて「お前も同じように股をさいてほしいか」と叫んだ。

二人はウルクの人々の喝采を浴びたが、その夜、エンキドゥは不吉な夢を見たのだった。

第7の粘土板
エンキドゥが見た夢は

「巨大な鳥アンズーが、そのライオンの手、ワシの爪で男の髪を掴んだ。男はギルガメシュ王よ、助けてくれと叫んだが、王は恐れて逃げた。男は暗黒の家に連れ込まれるとそこには祭司たちと神々がいて、冥界の女王エレシュキガルが訴状を手にしていた」というものだった。

エンキドゥはアヌ神が送り込んだ天牛殺害の責任を取らされて、神々から死罪を賜ったのだった。

エンキドゥは親友の幸運を呪うわけにはいかず、自分の名はニップールに建てた門から外されるのだろう、私を森の中の獣たちから見つけた狩人はならず者で、聖娼シャムハトの誘惑に乗らなければこんなことにはならなかったのにと、悔やんだ。
しかし、ギルガメシュ王に神々の決定を覆す術は無く、エンキドゥは、静かに死を受け入る。
 無力なギルガメシュ王は、12日間、日々衰弱していくエンキドゥに付き添い、親友の死を看取った。

第8の粘土板
暁がかすかに輝きはじめたとき、ギルガメシュ王は追悼の独白を始めた。無力だった自らへの情けなさを自覚しながら、二人の栄光の日々を振り返りる。

「あなたは闇になり、もはやわたしに耳を傾けない。頭をもたげない」

葬送の準備が始まり、親友エンキドゥの副葬品に金、ラピスラズリ、象眼細工、紅玉髄(こうぎょくずい)、剣などを添え、王は親友に永遠の別れを告げた。

第9の粘土板

ギルガメシュ王はエンキドゥの死を自分に重ね、
「わたしも死ぬのか。人は死から逃れられぬのか。」と荒野を彷徨い、死から免れたという「生命を見た者」とも「永続する生命」とも言われるウトナピシュティムへ会いに旅立つ。
彼はすっかり自信をなくしていたので、ライオンを恐れ、月の神シンから力をもらって、やっとライオンを倒した。その皮を剥ぎ、身にまとい、マーシュ山に着いた。
 マーシュ山は頂上が二つある山で、太陽神シャマシュがのこぎりで山を切り分けて太陽が登る路を造っていた。
そこには日の出と日の入りを見張る門番のサソリ人間の夫婦がいた。
サソリ人間夫妻はギルガメシュに何をしに来たのかと尋ね、ギルガメシュは生命を見た者の居場所を聞いた。
サソリ人間の夫婦はギルガメシュが半神だったので、ウトナピシュティムの住む場所は120kmも闇が続くマーシュ山の向こうにあると教えたが、行くことを思いとどまらせようとした。
 しかし、どうしても死の秘密を知りたかったギルガメシュは自分の声で位置を確かめながら歩き抜けた。
すると、紅玉随の実やラピスラズリの葉が明るく広がる海岸に出た。
第10の粘土板

海辺には一軒の酒屋があって、酌婦シドゥリが座っていた。

酌婦シドゥリは、ギルガメシュに気付くと
 「ライオンの毛皮をまとい、その胸に悲嘆が見え、顔は遠い道のりを行く者であり、暑さと寒さで焼け付いている」と疎ましくなり門を閉ざした。
ギルガメシュ王は、
 「私は蛆虫がエンキドゥの鼻からこぼれるまで友の死を見つめたのだ。海の向こうにいる生命を見た者に会いたいのだ」と言った。
酌婦シドゥリは、「とても無理ね、死の水を渡れるのは太陽神シャマシュだけよ。でも、ウトナピシュティムの舟師をしているウルシャナビに頼んでみたらいいかも」と教えた。
ギルガメシュは焦りのあまり舟師を縛り、舟だけ奪って一人で行こうとしたが、進めなくなったので、舟師ウルシャナビに先程の無礼を詫び、丁寧に舟を出してくれるように頼んだ。
舟師ウルシャナビは酌婦シドゥリと同じ質問をしたのでギルガメシュは同じ答えをした。ウルシャナビはギルガメシュの願いを聞き入れて舟を出してやることにした。

ウルシャナビは30mの長さの櫂を120本造った。
「死の水」は一かきで櫂を駄目にするからだった。

ギルガメシュは遂に「生命を見た者」ウトナピシュティム夫妻に会うことができた。
ウトナピシュテムは同じ質問をし、ギルガメシュ王は同じように答え、そして尋ねた。

「エンキドゥは粘土になってしまった。私も永遠に起き上がれなくなるのだろうか。人は何故死なねばならんのだ」
 ウトナピシュティムはギルガメシュの嘆きを聞くと、
「愚か者のギルガメシュよ。その疑問は悲嘆を引き延ばすだけだ。
遠い日を近づけている。誰も死を見ることはできない。誰も死の顔をみることはない。
誰も死の声を聞くことはできない。神々が人間の死と生の定めを確立したのだ。
ただ、死の日を印づけず、生のそれも印づけなかった人は死ぬように神に造られたのだから、諦めるのだ」と厳しく諭した。

第11の粘土板

しかしギルガメシュは諦めなかった。
あなただって人間の体をしている。あなた方だけが神々の集いに立ち、不死の生命を探し当てたのは何故だ」と尋ねます。
どう諭しても諦めないギルガメシュに、とうとうウトナピシュティムは不死の秘密を明かし始めた。

「昔、傲慢になり享楽をむさぼっていた人間に心を煩わせたウルクの主神アヌ、メソポタミア全域の主神エンリル、戦争の神ニヌルタ、嵐の神エンヌギ、真水の神エアが相談しあい、人間を洪水で全滅させることに決めたのだ。ところが、真水の神エアが私にこう告げてくださった。
【──私は、私を嫌う主神エンリルに反抗して、慎み深く信心深い、若いあなたが生き残れるようにしてやろう。持ち物を放棄し、命を求めよ。方舟を造りるのだ】 私はさっそく方舟を造り始めた。大工は舟柱を運び、石工は石を、富者はアスファルトを貧者は必需品を持ち込んだ。方舟の大きさは、側面の高さ10ニンダ、上面の縁も10ニンダ(一辺60mの立方体)だった。平らな階段で繋がれた7階建てで、各階は9室に分かれていた
 内部を32,400リットルの天然アスファルトで塗り込め、18,000人の運搬人のためにも、多くの雄牛、ビール、油、ワイン、吸い物を供した。方舟は完成し、銀、金、生き物の種すべて、家族、親族、獣、技術者を乗せた。

暁がかすかに輝きはじめたとき、天の基底部から暗雲が登ってきた。そして、嵐と雷の神アダド、冥界神エルラガル、戦争の神ニヌルタが大洪水をもたらしたのだ」

事実、その洪水のあまりの凄まじさに、引き起こした神々自身が驚愕した。

天界では神々が犬のように体を丸めてうずくまり、愛と戦争の女神イシュタルでさえも、
 「あたしは神々の集いで、どうしてこんな禍事を口にしてしまったのかしら」と嘆き、神々は頭を垂れてともに後悔した。
七日目に、やっと暴風と大洪水が収まった。

ウトナピシュティムは語り継いだ。
 「大海を見やると、そこは沈黙が支配していた。すべての人々はは粘土に戻ってしまっていた。7日後、私は鳩とツバメとカラスを飛ばした。彼等は戻ってこなかったので水が引いたのだと判った」

そのころ、空の神アヌは、熟考もせずに大洪水を起こし人間を滅ぼしたのは主神エンリルに責任があると言ったが、エンリル神は逆に、生き残った人間がいるのはけしからんと怒りだした。
すると、ウトナピシュテムに秘密を洩らした真水の神エアが、
「罪人には罪を与えればいい。それで許してやれ。アンタもそれで我慢しろ。生き残った彼を再び滅ぼすな。第一、洪水なんかより、ライオンを、狼を起こし、飢餓を起こせば良かったのだ。私が神々の秘密を明きらかにしたわけじゃない。ウトナピシュティムに夢を見させたら、彼が神々の秘密を感じ取っただけだ」

エア神の主張を受け入れた主神エンリルは方舟に現れウトナピシュティムの顔に触れて言った。
【人間であるお前とお前の妻は、たった今から我々のようになるだろう】と。

「そして私たち夫婦は、ここに住むことを許されたのだ。だが、いまは、誰がお前のために神々を集わせ得ようか」 とウトナピシュテムは言った。
さらに「しかし、もし六日七晩眠らずにいたら、探し求める生命を見つけられるかもしれん」と付け加えた。

ギルガメシュはしかし、不眠どころかたちまちのうちに寝てしまったので、ウトナピシュテムは妻に、
「生命を求めるこの若者を見よ。今、この者の上には眠りが霧のように吹きわたる」と言った。

ギルガメシュ王は自分のふがいなさに項垂れた。
ウトナピシュティムは舟師ウルシャナビへ、ギルガメシュを舟に乗せ、海岸で汚れた髪を洗わせ、ウルクの町へ連れて帰れ、と告げたすると。
 疲れ切り、消耗しきったギルガメシュが可哀相になったウトナピシュティムの妻が、夫に、「せっかくここまでたどり着いたのに、せめて教えてあげたらよいでしょう」と言った。
妻の言葉に、考え直したウトナピシュティムは、
 「根が刺薮のような草がある。それが不死の生命をもたらすのだ」と告げる。

ギルガメシュは「死の海」の深淵に通じる溝を開け、重い石を足に縛り付けて「地下界に横たわる原始の海」へ潜った。
不死をもたらす草の刺が手を刺したが、しっかり掴んで岸辺に戻り、舟師ウルシャナビに送られて意気揚々とウルクの町へ戻った。
死の国に行ったその身を清める為に途中の泉で、ギルガメシュ王は「老いたる人が若返る」草を地面に置いた。

すると、一匹の蛇がその草の香りを嗅ぎつけて、音もなく忍び寄り、草を取り去ってしまった。
蛇は戻って行くとき、皮を脱ぎ棄てた。

すべての苦労が無駄になったギルガメシュは腰を落として泣いた。
ウルシャナビとギルガメシュは二人は旅を続け、ウルクの町へ戻った。
神々に近づくすべての試みに失敗したギルガメシュは、人間の王として、ウルクの城壁を舟師ウルシャナビに見せた。

その夜、エンキドゥは黄泉の国から親友の夢枕に立って、死の世界の辛さを物語ったが、もっはや友になす術は無かった。

ギルガメシュサーガ ― 了