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グリムのお話

ラプンツェル

塔の女

ある国の一番高い塔にいつしか女が閉じ込められていた。
出入り口は無く、てっぺん近くに小さな窓がひとつだけ。
そして女は月の出とともに歌いだす。
その切ない調べと、愁いをおびた声に国中の男達はたちまち虜になった。
毎夜、塔の周りに群がる男達。時折、たった一つの窓から、様々な色の髪の毛で出来た細いロープがおりてくる。
男達は女の気に入りそうな物をロープに付けてやると、とろけそうな歌声が夜風に乗って国中に響き渡り、男達の心が浮きたった。

どんな女がいるのだろうと、男達はそればかりを考えるようになった。
男達はとても丈夫なロープをつくって、髪のロープの先に結わえてみた。
すると、そのロープが垂らされてきたので、身の軽い若い男が登ってみる事にした。
その夜はいつにもまして妖艶な歌声が一晩中塔の中からしていたので、下で成り行きを見守っていた男達はあらぬ想像をし、眠れぬまま朝を迎えていた。
次にロープを登るのは自分だとばかり争いまで起る始末である。

一晩に一人ずつ、塔の窓に消えていく男達の耳には、妻や恋人の怒りや嘆きなど、とうの昔に届かなくなっていた。

そうして、男達はただの一人ももどってはこなかった。それでも、男達は自分の番になるのを待ち焦がれていたのである。
とうとう、この国の最後の男になった。
男は恍惚の中でするすると登っていく。

目も眩む高い塔に登っている事など男の意識にはすでに無く、ひたすら愛しい女に会うために死を賭けて登っていく。

恋焦がれた高窓に手が掛かった瞬間――

男は襟首をむんずと捕まえられて塔の中に引きずり込まれた。
男の絶叫が響く。だが、下にいる女達の耳には例の妖艶な女の歌声にしか聞こえない。
女達は不実な夫や恋人に恨みを抱いたまま家路に着いていく。
その顔は塔の中にいた“おんな”と同じ顔つきであったが、誰もそれに気づかない。

そして、男がいなくなった国の一番高い塔からは、女の歌声は途絶えた。

*** ラプンツェル ***

赤ずきんちゃん

赤い女

 ある村に明るく健康な少女がいた。

母親と二人で住んでいたが、数年前にオオカミに襲われて母親が死んでしまうと天涯孤独になった。

 日々の暮らしは村人の様々な用足しをして幾ばくかの食べ物などを分けてもらっていた。

しかし長じるにつれ、美しくなっていく娘に村の男達が邪まな思いを寄せないわけが無い。
 それはまた、村の女たちにすれば危険この上ない存在ということである。

 娘にも充分判っている事であった。

男達が自分を狙っている事は承知していたし、幾度かそう言う目にも遭っていた。

女たちの嫉妬心も痛いほど突き刺さっていく。

 結婚すれば村人の目も変わるかと、手ごろな独身男の求婚を受け入れてみたが、新婚の夫はまたしても森でオオカミに襲われ、あっけなく死んでしまった。

 すると、娘は自覚せずとも未亡人の色香を醸しだすようになる。

男達も夫を亡くした美しい女に何かと世話を焼きにくる。

村の女たちはこの寡婦に激しい嫉妬心を剥き出しにしはじめ、獰猛な禽獣さながらの陰湿な虐めを隠そうともしなくなった。

 男達はそんな娘にますます同情を寄せる。

 娘は困り果て、ついに村を出る決心をし、粗末な身の回りの品だけを持って、オオカミの住む森に入っていった。

 それっきり、娘は村に戻っては来なかった。

 そして数十年後、獲物を追って森に迷い込んだ狩人が、オオカミの群れに囲まれている一人の老婆を見つけた。

 狩人はあわててライフルを構え、真ん中で今にも老婆を喰らおうとしていた巨大なオオカミに狙いを定めて撃った。

狙いはたがわず弾丸は巨大なオオカミの眉間を撃ち抜いた。

 だが、ばったりと倒れたオオカミに、老婆は取りすがって号泣したのを見て、狩人は我が目を疑ったまま、呆然と立ち尽くす。

「おまえ、よくも、わたしの息子をころしたね・・・」

 そう言うなり老婆は跳躍し、間髪を入れず狩人の喉笛を噛み千切った。

 狩人の返り血をあびた老婆は死んだ「息子」を引きずり、他のオオカミを従えて森の奥へと消えていった。

*** 赤ずきんちゃん ***

白雪姫

継母になった女   (白雪姫)

 ここは美しい国ですね。
私は隣国の公爵家の長女ですが、今日この国の二人目の王妃になります。
 前后さまはお一人目のお子様を御産みになってすぐ、産後の肥立ちが思わしくなく亡くなってしまったので、私は王妃になると同時に娘も授かりました。

 もうすぐお城に着く。
 私は王妃としてやっていけるのだろうか。
 母親になれるのだろうか。
 不安はあるけれど、この胸の高鳴りを押さえる術を私は知らない。

・・・・

あ、あれが私の夫?
なんと、お若くてお美しくてりっぱな方なのだろう・・・ああ、頬が火照ってくるわ。
恥ずかしいわ、毅然としなくちゃ、王妃にふさわしい態度でいなくちゃ。
あの侍女に抱かれている赤子が姫?
ふっくらした頬、小さな唇、なんと愛しい可愛い子なんだろう。
私がお母様ですよ・・・まぁ、笑ったわ、大丈夫、私はやっていける!

・・・・

あなた、私、子供ができましたのよ。
男の子がほしいですわ、あなたに良く似た後継ぎをきっと産んでみせますわ。

・・・・

そんな、そんな・・・
私はもう子供を産めないというの?流れた子は・・・
おお・・・私のぼうや・・・

私にはもうこの娘しかいないのですね。
立派に育ててみせますわ。

・・・・
姫?姫!!何処へ行ったのです?
また逃げ出したのですね?
王女とはいえ、女として身に付けるべき事はたくさんあるというのに。
お前たち、あの子を甘やかしてはならないと、あれほど言っておいたのに、私の言い付けをなぜ守らないのですか?

え?・・・王様が?

  ・・・なぜ・・・

 この国に嫁いで13年。
いつのまにか夫は私に触れなくなった。そういうものなのだろうか。
 姫はなんと美しく成長したのだろう。でも、私に対して、ことごとく反発するのは・・・
これもまた、この子が成長した証なのだろうか。
 隣国から縁談の話があるというのに二人とも耳を貸そうともしないのは困った事だ。

・・・・

あれは・・・王と姫?いつまでも仲がいいわ・・・本当の親子だもの、仕方ないのかもしれない。
お供も連れずにどこへ行くのかしら。
調度いいわ、あの縁談の事を相談しなくては。

・・・・

あなたたち!!
なにを・・・一体何をしているの!?
おお、神よ―― !
あなた、実の娘に!いつからなの、こんなこと?

・・・・

姫、今、なんて言ったの?私がなんですって?
あなた、なぜなのです!え?前后に生き写しだから・・・そんな

・・・・

なんてことだろう。
姫は妊娠している。月のしるしを見ないうちに・・・
あの子は自分の体の事を何にもわかっちゃいないのよ。
どうすればいい、こんなことが他に知れたら、大変な事になるわ。
生まれるのはいつ?今のうちになんとかしなくては。始末しなくては。流してしまわなくては!そうだ、あの薬があるわ・・・
ああ、実の父の子供だなんて――神様、お助けください!!

 王と姫を会わせてはならない。

 でも、どうやって。

 そうだ、前后によく似た女を捜すのだ。

 前后の面影だけにすがり付いている王の心を姫から引き離すのだ。
 そして、姫は、どこかへやらねばならない。
 私の実家のそばにある別荘がいい。森の中だし、もはや王は通ってこないだろう。
 姫の気に入りの召使もつけて、何不自由なくさせなければならない。
 私も時々見に行ける。

・・・・

姫、あなたのためなのですよ。
だだをこねても、もう決まったのです。
もちろん、お父様もご承知ですよ。
まぁ、そんなに泣きじゃくるとせっかくの可愛い瞳が溶けてしまいますわ。
何故と訊くのですか?
姫、それはあなたが人として、してはならない罪を犯したからです。
お父様から誘ったのですって?!

―― おお、神様、お許しください。この子はまだあまりにも幼いのです。

・・・・

ほら、見えてきましたわ。
美しい森でしょう?大丈夫ですよ、あなたを食い殺すオオカミなぞいやしません。
私の故郷なのですもの。
あれがそうですわ。私も幼い日、あの別荘で過ごした事があるのです。
近くにきれいな泉も花畑もあるのですよ。
きっと、あなたの気に入ると思うわ

・・・・

だから、そんな怖い顔で私を睨まないで・・・
私はあなたが心配でならないというのに。

――― なのに、どうして そんなに泣くの?

 王は落ち着かれた。あの女が気に入ったようだ。
 前后が姫を産んだのは15だったと聞いた。
 そうか、夫は少女が・・・
 私に触れないわけが解かった。仕方ないのだろう、王だもの。
 姫は私を恨んでいる。
 父親と引き離した私を深く憎んでいる。

 仕方ないじゃないの、私は王妃だもの。

・・・・

 姫、素敵な胸紐でしょう?虹のような絹糸で組んであるのですよ。
結んであげましょうね・・・
姫、何を苦しがっているの、きつく縛ってなぞいませんよ。

・・・・

 姫、このべっ甲の櫛は私がここに嫁いできたとき母からもらったものですわ。
あなたにあげましょうね。さあ、髪を梳いてあげるわ。母が私にしてくれたように・・・
あっ、なにをするの!?・・・櫛が、母の形見の櫛が折れてしまったわ。
そんなに強く梳いてないでしょう?傷?付いてなんかいないわ。
 お前たちまで、何故そんな目で私を見るのですか?

・・・・

いったいどうしたっていうんだろう―――
困ったわ。
あの人に何かあったことを感づいてるのかもしれないわ。
幼いながらも、もう嫉妬を知っている。
私と同じ、女なのね。

・・・・

 さあ、姫、おいしい林檎を持ってきたわ。
お城の庭のですよ。あなた、お好きでしょう。
いっしょに食べましょうね、幼かったときのように。
それに、もうすぐ、あなたに会わせたい人が来るのです。
いえいえ、お父様ではありませんよ。
お父様にはお好きな方が出来たのです。
まあ、そんなにむくれちゃだめよ。
ほらほら慌てるから・・・姫、姫?
どうしたのです!?ああ、大変!誰か!

誰か!!
姫の喉に林檎が!!!

 良かった。
 もう少し遅かったら姫は窒息するところだった。
 私には姫を持ち上げて、喉に詰まった林檎のかけらを吐き出させるなんてことは出来なかった。
 息を吹き込んだあと気が付いた姫の顔・・・
 もう、この子の頭の中から父親はいなくなったのがわかった。
 一安心だわ。
 ありがとう、皇子。

・・・・

今日は姫と皇子の結婚式。
これで私もようやく自分の事が考えられる。
若い女に夢中な王に代わって、国の政務に専念できるわ。

・・・・

ああ、見えてきた。どんな結婚式になるのかしら。
楽しみだわ。前后にもよい報告ができるのね。
長かったし、辛かったけれど、私はやるべきことを果たし終えたのよ。

・・・・

? どこへ行くの?
なぜ、ここはこんなに暗い雰囲気なの?
結婚式ではないのかしら。
え?なんなの、お前達!!乱暴な、私をなんだと心得ている!
私は王妃ですよ、無礼者!はなしなさい!
痛い、嫌、やめてっ!

・・・・

白雪姫:お義母さま、今までの仕打ち、わたくし忘れてはいませんのよ。
    あなたは魔女だわ!

皇 子:魔女は処刑されねばなりません。お覚悟を、王妃様。
    もちろん王様はご承知です。


 ≪ 魔女は真っ赤に焼けた鉄の靴を履かされ、胸を掻きむしりながら死んでしまいました。 そして皇子と姫は末永く仲良く幸せに暮らしたということです。 ≫

*** 白雪姫 ***

ヘンゼルとグレーテル

寄 生

 引き続く飢饉で人々は苦しんでいた。

 どこの村でも親の子捨ては絶えることなく、間引きは当り前のことになっていた。

 親はオオカミの住む森に捨てる子を連れて行く。泣き叫ぶ子供の声など、生きる事に疲れきった親の耳には届かないのだった。

 今日もまた、小さな男の子が捨てられた。

 男の子は泣くわけでもなく、置き去りにしようとしている親の背中をじっと見送っていた。

そして姿が見えなくなると、村とは反対の方角、森の奥へと歩き出した。

 どれくらい歩いただろう。
 

ぽっかりと樹海が途切れ、白い建物が見えてきた。

疲労と空腹で倒れそうだったが、男の子は力をふりしぼって歩きつづけた。
 

 修道院だった。

 男の子は手厚く救護され、空腹を満たし、きれいなベッドで眠る事が出来た。

そのまま男の子は修道院に引き取られた。

 男の子は自分の幸運を神に感謝した。

 もう、食べる物で困る事は無いのだと・・・。

 湯浴みをさせて長年の汚れを落とされた男の子は、貧しい村に生まれたのだとは思えぬほど綺麗な子供だった。

 淡い薔薇色の頬と柔らかく輝くプラチナブロンドの巻き毛、深い海の底のような瞳に長い睫毛が震えている。品よく整った眉は勝気さを現し、形の良い鼻梁と、どんな娼婦も敵わぬ赤い唇を持っていた。

 思春期前の少年の危うい美しさは修道士たちを幻惑するのに充分すぎた。

 神に仕え、敬虔な祈りと質素な生活をしていた彼らにとって、この子はまさに毒の華であった。

 あどけない仕草まで彼らには誘惑の罠になる。

 少年特有のたわいない稚気もまた彼らの心をずたずたに引き裂いていく。

 もはや彼らにとって神とはこの小さな男の子に他ならない。

男の子のために彼らの生活は存在していた。

 堕落と嘆く者もいたが、その者もまた男の子の虜に違いなかった。

 男の子が長じると、ますます美しい男になった。

 少年から青年への変化に戸惑い、修道士同士で殺傷事件が起きた。

 院長はスキャンダルを恐れ、上には事故と報告する。

院長こそこの青年の最大の庇護者だったのだ。

 自殺者も出た。あまりの煩わしさに青年みずから手を下した事もある。

「神」は冷ややかに狂い死にしていく修道士たちを見下していた。

 ある日、近くの荘園領主が修道院にやってきた。

 いつもの寄付だろうと院長が丁重に出迎えると、領主は一人娘を伴っていた。
 多額の寄付を持参されて院長は女人禁制を咎めだてできない。

愛想笑いをする老獪な院長の背後にはいつものように長身の美しい青年が立っていた。
 領主の娘はひと目見るなり釘付けになった。

 以来、娘は青年に会いたいと父親を困らせ、ついには病の床につく始末である。

 領主はしばらく青年を借りたいと院長に申し出た。

 娘の命に関わる、神の慈悲くれ、さもないと今後一切の寄付はしないと言われて院長はしぶしぶ承諾する。

 美しい青年は満足げに眠る娘を見おろしていた。
 冷え冷えとした蒼い瞳に一切の感情は表れない。
 青年は新たな庇護者を見つけたのだ。もう、修道院はいらなかった。

青年は娘の名を呼ぶ。

「ワタシノ タノミヲ キイテクレ、グレーテル・・・」

「ええ、あなた、なんなりと・・・ヘンゼルさま」

*** ヘンゼルとグレーテル ***

ホレばあさん

隠忍の井戸

二次元世界のかたすみに小さな隠忍(おに)がいた。

言葉つづりを糧として生きているのだが、最近、腹が減って仕方が無い。

“美味いもんを喰らいたい”

あちこちのテーブルに飛んでいくのだが、そうそうご馳走にありつけるものでは無いし、こんなおかしな隠忍がいることなどテーブルの主人に判るわけではない。

それでも極上の想いはないものかと隈なく探す手間を惜しんではいなかった。

この隠忍、人間の喜怒哀楽、想念、情念を喰らって生きる異次元生物である。

あるとき、妙案を思いつく。

糸を張るのだ。

この糸に引っ掛かる者こそ、きっと最高の想いを持っているのに違いない。

隠忍は今まで喰らってきた想念を再び文字に変換し、無数に散らばるテーブルにそっと置いてきた。

さあ、おいで・・・あたしの心に掛かっておくれ――

ある日、赤裸々な自分を綴る者達が、張り巡らせた糸に掛かったのを隠忍は見逃さなかった。

“怖がる事はないよ、ここに居なよ。なぁに、あたしに御馳走を喰わしてくれればいいのさ。とびきりの想いを綴っておくれ。すると世界に光が降るのさ。
光降るのはHOLLY NIGHT。
あたしのことは隠忍とでも呼んでおくれ”

姿かたちはわからないが、優しい言葉は心に染みたので隠忍の望みに応えようと思いのたけを言葉に綴った。

だがいつしか彼らは現実世界に帰りたくなった。

“やはりそうかね”隠忍は言った。

“現実に戻るのは良い事さ。あんたたちはよく自分の心を表現していたよ。美味かったとも。”

彼らは出口の門に案内された。

“さあ、ここを押すと現実だ。その前にあんたたちにこれをやる”

隠忍が差し出したのは黄金に輝く ≪昇華された情念≫ の数々だった。

“ぜんぶやるよ。情念は ≪思い出≫ に変えておいたからね。なに、あたしを楽しませてくれた礼さね、遠慮はいらないよ、ほら、持っておいきよ”

気が付くと彼らは電脳機械 [ 隠忍の井戸 ] の前に座っていたが、気分はいつになく晴れ晴れしていた。

隠忍(おに)の糸に掛かった人間達の中で素直に自分の想いを綴れなかった者は ≪ 黄金の情念の昇華 ≫ をもらえなかっただけでなく、【 取り繕う 】という名の黒い皮を心の中に幾枚も被せられた。
 

“ぜんぶやる。お前の心にピッタリだろう”
 

 そして彼らはますます重くなる情念に苛まれることになったが、この [ 隠忍の井戸 ] への道標は二度と見つからなかった。
   

   **** ホレばあさん ****

ブレーメンの音楽隊

ブレーメンの女うた (ブレーメンの音楽隊)

 夫の暴力に耐え切れなくなった女が家を飛び出した。
 青いアザを隠すために大きなマスクをして、着の身着のまま、身の回りの物しか持ち出せず、駅まで来たものの途方にくれていた。
 するとプラットホームの向こうから歩いてくる初老の女が目に止まった。
女はどっかと隣にすわると、
「どこへ行くん?」 と訊いてくる。見知らぬ女なのに気安げに尋ねられると、それまでの我慢の糸がぷつんと切れて、今までの辛さが次から次へと口を突いて出てきてしまった。
ああ、アタシは誰かに聞いてもらいたかったんだ、と今更ながら気が付いた。
「ふうん、そんなら私と一緒に来るといいよ」
誘われるままに大きなマスクの女は列車に乗った。蒸気機関車であった。
あら、こんな列車、今時走っているのね、レトロブームとかいうのかしらとマスクの女は思ったがよくいるカメラ小僧の姿はなかった。
「そのへんに座ってなよ。遠いからさ、ゆっくり寝てるといいよ」
初老の女はマスクの女の肩をひとつポンとたたくと、隣の客車の方へ歩いていった。

さて、どれくらい揺られていたか、レトロ列車は駅に着いたが、降りていいものかどうかわからなかったのでマスクの女は、あの初老の女が来るのを待っていた。
外を見るとあの女がプラットホームに立っている。傍らに貧相に背を丸めた女を連れていた。

そんなふうにして、今、似たような顔の中年の女達が4人、ひとつかたまりになって座っている。
互いの不幸自慢をしていると、あんなに滅入っていた気分がいつのまにか消えていた。
あたしたち、どこで降りればいいんだろうね?
誰ともなしにつぶやくと、なぜか、少し不安になってきた。
自分達はいったいどこへ連れて行かれるのだろう。
どこへ行こうとしているのだろう。
どこへ行けばいいのだろう。

・・・・ドコヘ イキタイノ ?・・・・

4人の女は自分に問いた。

次の駅で降りよう! 
4人がそれぞれ心に決めた時、
気が付くと、あの駅のプラットホームに立っていた。

向こうから、あの初老の女が歩いてくる。
マスクの女はじぃっと見ていたが、初老の女は自分の中をするりと通り抜けて行った。

マスクの女はマスクをはずし、まっすぐ前を向いて大股で明日へ歩き出した。

*** ブレーメンの音楽隊 ***

歌う白骨

歌う白骨

 社長令嬢が婚約した。
 
 結婚はプロジェクトが成功してからというので、婿になる男は必死で頑張っていた。
 
 朴訥で不器用な男だったが令嬢はそんな男を愛していたので、彼のために何かと協力していた。

 彼女の人脈は男の強い武器にもなった。

 しかし、仕事ももう少しで終ると言う時、突然男は失踪する。

 令嬢はあらゆる手段を尽くして探したが、遂に行方はわからなかった。

プロジェクトは男の兄にあたる男が引き継ぎ、無事成功させた。

令嬢はこの兄にいなくなった男の面影を見ていたので、結婚を承諾してしまった。

「お前はなぜいつまでも弟にこだわる?会社のために働いているのはこの俺だ、今、お前を抱いているのはオレなんだ!」

夫婦の関係はあっけなく破綻していったが、

「離婚?ははは、社長の座を降りるつもりは無い。お前の夫であることもな。」

 令嬢は家に軟禁されたも同然だった。

彼女の唯一の楽しみはパソコンだった。

孤独を噛みしめながらも、画面の向こう側に心を飛ばすのが日課となった。

 それは、まったく偶然だった。

あるサイトに入って何の気なしにながめていると、いなくなったはずの男の名前で書き込みがあったのだ。

同姓同名にきまっている・・・でも、彼の苗字は珍しいものだって言っていたはず・・・
ああ、きっと、だから、コノヒトはその苗字をシャレで使っているのね、良くある事だわ。

それでも、彼女は懐かしさと愛しさと哀しみとで彼に返信し、その日から彼との語らいが始まった。

自分の胸のうちを赤裸々に綴っていくと、彼の境遇もまた、いなくなった男に良く似ていたので、ますます、のめりこむようになった。

もしかしたら、と思って、たずねた事もあるが彼は否定した。

夫のいないこの時間だけが、彼女の至福の時だった。

相手もそうだと言った。恋愛感情になるのは当然だった。

彼が「ご主人を殺してあげようか」と言い出したとき、もちろん冗談なのだろうと 「ええ、お願いするわ、早めに…笑」と返信した。

数日後、夫の変死体が近くの川原で見つかった。

何かに怯えたように、恐怖の表情のまま固まった夫の死に顔だったのに、なんの物証も無く、自殺と断定された。

事実、夫は会社の多額の金を横領していたのが発覚したのである。

それを気に病んでの自殺とされた。

令嬢は夫がそんなことを気にするような男ではない事はわかっていたが誰にも言わなかった。

寡婦となった令嬢はパソコンのスイッチを入れた。

メールが一通・・・

       “おとうとをころしてうめたあに
        てがらとつまをうばったあに
        だから ころした あいしているよ しあわせに”

急いで彼のサイトに行こうとしたが、エラーメッセージ表示しか出なかった。

後日 すでに白骨化した 弟の遺体が近くの山中で見つかった。

骨は大事そうに携帯電話を抱えていた。

*** 歌う白骨 ***

眠れる森の美女

Sleeping Beauty

私は王子様を探していたの。

荊茂れるこの会社・・・
棘だらけの先輩たち・・・魔女も逃げ出すお局さま・・・

でも、私、彼女達に決して逆らわないわ。じっと耐えているの。
やっと入れた一流会社。
辞めるわけにはいかないのよ。

だって一流大卒の一流の男たちがいったいどんな女を好むのかじっくり見続けてきたんだもの。

彼・・・私の王子様。
顔も申し分ないし、第一お金持ちの三男坊で生前贈与でマンションを持ってるし、性格は・・・重役の娘も彼を狙って相当なPUSHしたらしいけど、親の七光に屈しなかったっていうし。

彼を狙ってあまたの女達が恋の鞘当を繰り返したって言うわ。
うんざりした彼を何度も見ている。
そして私は誰にも気付かれずに彼の好みのタイプに変身したのよ。顔も徐々に変えたし、会社での態度も気をつけてきたわ。

ほら、やっぱり、健気にがんばる女に弱いみたいね。
「はい。大丈夫です、平気です、こんなこと。え?・・・本当ですか?嬉しいです」

やった!デートよ、誘われたわ!

しかし、先輩やお局さまたちって、つくづくバカよね。
気に入らない新入り女子社員をイジメるのって結局自分達の首をしめてるんじゃないの。
私知ってたわ、お局2号の陰湿な虐めの理由、彼好みの女を追い出したかっただけだってこと。
でも、彼、2号のこと心底嫌いなのよ♪当り前よ、私、彼女に虐められる度に彼の目に触れるようにしてたんだもの。

男なんて、ちょろいもんよね、落すのなんて簡単よ。自分の本性を眠らせて置けば良いんだもの。

・・・・ 眠れる森の美女・・・

金の鞠&カエルの王女

カエル (金の鞠&カエルの王女)

「冗談じゃないわよ!」

王女様は美しい顔を蒼ざめさせながら、父君のもとへ急いでいました。

彼女は当時の女性、それも最高位の貴婦人らしからぬ“異端”的なものの考え方をする女性でした。

女は夫に忠誠を尽くし、家事を完璧にこなし、良い子を産み育てるだけの存在でいいはずは無いと考えていたのです。

そんな一風替わったものの考え方をするお姫様ですから、王様としても普通の結婚を勧めても上手く行かないだろうと踏んだのです。

「不覚だったわ、わたくしとあろうものが。よりにもよって、お父様、わたくしをまんまと騙しましたのね?!」

一週間前、王女様は森の泉のほとりで金の鞠で遊んでいました。キラキラ輝く黄金の球を転がしたり、投げてみたり、梢の木の実を落してみたりしていたのですが、はずみで泉に落してしまったのです。

そのとき水底からすくい上げてくれたのが、人語を解するカエルでした。

カエルはその後、王宮に出向いてきて王様たちから歓待を受け、嫌がる王女様の部屋に泊まったのですが、なにかの拍子で“魔女の呪い”が解けて、元の王子の姿にもどったのです。

「もどった ですって?はっ・・・カエルを人間にしただけじゃございませんの、お父様!?」

「なにをバカな事を言い出すのかと思えば・・・そんなこと出来る分けなかろう、わしは魔女ではないぞ。王子はその昔、悪い魔女に逆らってカエルにされていたのだと、そう申しておろうが。そなたは自分の夫をなんで信じられぬのだ?」

「うそよ!!だって、その証拠に、あいつは夜になるとイボイボのヌルヌルで、わたくしの、あの、そのぅ・・・」

「姫?」

「とにかく あいつはカエルが化けているんだわっ!」

王女様はそう言い放つと父君様の部屋から飛び出していきました。

そして、あの森の泉まで行くと、我が身の不幸を嘆きました。

金の鞠を拾ってくれただけのカエルとなぜ結婚しなくちゃならないの?私は人間なのよ。それにあの、あれが私の・・・

あまりのおぞましさに身を震わせたせいで王女様は泉に落ちてしまいました。

「溺れてしまうわ、誰か助けて!だれかっ・・・あら?」

深い泉に沈んでいくというのに、ちっとも苦しくなりません。

王女様はいつのまにかカエルになってしまったのです。

「そんなぁ、なんで?」

そうして、いつのまにか百年ほどが過ぎた頃、泉のほとりで嘆いている男の声がしました。
カエルの王女はズルズルと這い出してみました。

かつて夫になろうかとした王子に良く似ていましたが、もちろんかの王子のはずはありません。

でも、つい懐かしさに声をかけてしまいました。

「もし、どうして泣いていらっしゃるの?」

若い男はびっくりした様子でしたが、嘆く理由を語り始めました。

彼は隣国の第三王子ですが、母上様のお眼鏡に適う花嫁を連れてこないと国を追い出されてしまうのだというのです。

カエルの王女はこの若い王子が不憫に思われましたし、親が気に入る結婚相手じゃないとダメなんいうのは許せませんでしたから、助けてあげようと思いました。

そしてカエルの王女は母上様の要求をことごとくクリアしました。

でも、王女はカエルの姿です。花嫁になどなれませんでしたが、王子は彼女にこういいました。

「カエルさん、僕は君が大好きだよ」

すると、カエルの王女はたちまち元に戻ったのです。

大層、美しい王女の出現に王子はひどく吃驚して言いました。

「君、人間の女だったの?僕、女ってものが嫌いなんだよ・・・言ったろ?カエルの君が大好きだってさぁ・・・」

*** 金の鞠&カエルの王女 ***

トルーデおばさん

to tell the truth

親の言い付けを良く守る、気立てのやさしい良い娘がいた。

娘にはひとり妹がいたが、ある日村からいなくなってしまった。

村中総出で探したがようとして行方は知れなかった。

両親は大層嘆き哀しみ、母親はついに病に伏した。

妹は姉と比べてわがまま放題に育っていたが、なにせ村一番の器量良しだったから、
村人も両親すらもこう思っていたのだった。

「仕方ないさ、妹は、我儘すらもかわいいもんだ。だが、姉は・・・いったい誰に似たんだか、気の毒すぎる」

あまりに美しいので誰かにさらわれたのだろうということになった。

「お母さん、私が妹を探しに参ります」

姉は病床の母親に告げた。

そうして、風の便りに妹の消息がつかめた。

「魔女の家ですって?!」

妹は“入らずの森”に住むという不思議な老婆の家へ向かったというのだ。

妹のいつもの無分別な好奇心か興味半分のわがままだろう。

いつもそうよ、言い付けなんて守ったためしがなかったわ。

ほんとにしょうの無い子。

姉は母との約束のために森の中へ入っていった。

日の光が届かないというのに深緑の世界に白くぼんやりと浮かび上がる小さなお城が見えてきた。

姉は胸の動悸をなだめすかして、恐る恐る覗いてみた。

「なに?・・・ここはいったい・・・」

“そんなところにいないで、おはいりよ”

姉は心臓を押さえて飛び上がった。

いつのまにか背後に老婆が立っていたのだ。

「いえ、あの、あたし、妹をさがしに・・・」

“おうおう、知ってるよ、あの子だろう?”

「どこにいるの?連れて行かないと、お母さんが死んでしまうわ」

“だから、おはいりってば。こわがらずに、さぁ”

姉は妹を探して連れ帰るためだと自分に言い聞かせて、精一杯の勇気をふりしぼって中へ入った。

甘やかな薫り、やわらかな光、あたたかく、そして心地よい調べ・・・

えもいわれぬ快感が体を貫く・・・

「ああ、なんてことなの――」

姉は妹を探している事も、母と約束した事も心からすっかり消えていた。

不器量な我が身を嘆くことも、密かに愛した男を妹にとられたことも、

親に気に入ってもらおうと懸命に努力した事も、

なにをしても許してもらえる妹を殺したいほど憎む事も、

“入らずの森”に不思議な老婆が住むと教えた事も・・・

忘れてしまいたいことを皆な忘れた姉はものいわぬ香木になっていた。

老婆はひょいとその香木をつかむと赤々と燃える暖炉に放り投げた。

“良く似た姉妹さね、仲良く燃え尽きるがいいよ”

白い小さな城は忘却の酔うような甘い香りを漂わせていた。

**** トルーデおばさん ****

ものぐさ糸くり女

ものぐさ女房

昔むかし、あるところに夫婦がいた。

たいへん貧乏だったが、女房はとても怠け者で、いつも何もしないでいたいものだと思っていた。

今日もいつものようになんにもしない女房を見かねて、亭主がつい「たまには食事を作ったらどうかね」とグチを言ってしまった。

そうしたら、口だけは天下一品の女房は忽ちこう言った。

「何言ってんだい。食事を作ろうにも食べられるものなんかひとつもありゃしないじゃないか!森にでも行って丸々太ったウサギでも獲ってきたらどうなんだい!!」

すると亭主はそれも尤もだと思い、さっそく森へ出かけて行った。

女房は亭主が本当に獲物をとってくると食事の支度をしなけりゃならなくなるのが嫌だったので、ネズミに化けてこっそり後をつけていった。

亭主はウサギを捕まえようと罠を作って待っていたが、そこへネズミに化けた女房がかかってしまった。

「こんなちっぽけなネズミじゃぁ、おっかぁが何て言うかわからねぇ・・・」と女房ネズミをポーンと森の奥に放り投げてしまった。

ネズミは地面にしたたか叩きつけられると元の女房に戻ったが、そのはずみで足の骨を折ってしまった。

家に大きなウサギを抱えて戻ってきた亭主は女房が足を抱えて唸っているのをみて驚いた。

女房は、

「アンタの言いつけどおりに食事の支度をしようと台所に行こうとして転んだんだ、歩けなくなったじゃないか、どうしてくれるんだい?!」
と泣きながら怒鳴り散らしたが、亭主は自分のせいだと思い、獲ってきたウサギの料理をすることにした。

するとウサギがこう言った。

「私の首を絞めないでおくれ。私の尻尾を切っておくれ。すれば私は元に戻れる。そしたら二つ願いを叶えてあげよう」

亭主はまたも吃驚したがウサギの言うとうりに尻尾を切ってやった。

するとウサギは目も醒めるような美女になった。

亭主の願いはこうだった。

「オラの女房をウサギに変えてくれ。そしてあんたがオラの女房になってくれ」

願いは叶えられた。

悦び勇んで亭主が新しい女房に 、

「このウサギで食事を作ってくれないか」というと、新しい女房は「アンタの願いは二つとも叶えられたじゃないか」
と言って、やっぱり何にもしなかった。

****グリム童話・『ものぐさ糸くり女』より****

青ひげ

青ひげ異聞

昔、森の中にりっぱなお城がありました。

この辺一帯を治める、ご領主さまのお城でした。

金や銀がふんだんに使われ、それはそれは贅沢の限りを尽くしたお城でした。

そんな大金持ちのご領主さまでしたが、お后さまになる人が見つかりませんでした。

なぜならば、ご領主さまのお顔には青いひげが生えていて、しかもとても醜かったからです。

しかし、ある時、ご領主さまは 隣りの国の光り輝くような美しい娘に恋をし、結婚を申し込みました。

娘は快く承諾したのです。娘には父親と兵士の兄がおりました。

「娘よ、うまくおやり・・・」

「はい、お父様。お兄様も、その時は・・・」

「わかっている、妹よ。安心しろ」 3人は頷きあったのです。

さて、盛大な結婚式の後、しばらくは何事もなく平穏な日々が続きました。

娘も夜の営みは暗くすれば不気味な夫の顔を見ることも無いので、不快ではありませんでした。

ご領主さまは生まれてはじめての幸せにすっかり有頂天になっていたのです。

「后よ、私はしばらく旅にでなくてはならない。城のことはお前に任せておく、よいな」

「はい、旦那さま。どうぞご無事でおかえりくださいまし・・・」

ご領主さまは妻に城の財産庫の鍵を渡しました。

娘はこのときを待っていたのでした。

かねての手はずどおりに父と兄を呼んで、城の金目の物を運べるだけ持ち出したのです。

そして、兄が苦労して運んできたものを使われていない奥の部屋に押し込めて置きました。

しばらくすると、ご領主さまが帰ってきました。

城の中の宝物が根こそぎ無くなっているではありませんか。

驚いたご領主さまは妻に詰め寄りました。

「そうよ、全部私のしたことよ。
今まであんたみたいな気持ち悪い男といっしょに居てあげたんだもの、いいじゃない!」

ご領主さまは大層嘆き哀しみ、そしてお怒りになりました。

手が刀にかかったとき、娘は大声を上げて兄を呼びました。

兄は軍隊の兵士仲間とともに城になだれ込んで、憐れなご領主さまの首を刎ねてしまいました。

兵士たちがくまなく城の中を調べると、なんと奥の部屋からおびただしい女たちの屍骸が見つかったのです。

古いのからまだ血が滴っているのまでありました。

「お后さま、危のうございましたなぁ」 兵士たちは口々にそう言いつつ、死体を片付けて行きました。

それからというもの、人々は死んだ領主は、容貌どおりの恐ろしい残虐な男だったのだと噂しあいました。

そして娘は未亡人として城のすべてを相続し、女領主として君臨することになりました。

「お父様、お兄様、これで何不自由なく暮らせますわ。
      だからこれからも私のために、若い女を沢山集めてきて下さいましね・・・」

若い女の新鮮な血こそ、彼女の類い希な美貌の源だったのです。

――― 青ひげ ――

三人旅稼ぎ職人

三つの言葉

***

大企業に運良く(あるいは実力で?)入った三人がおりました。

調子の良い時代に、泡踊りを踊りまくった(石鹸島ではない)のは良いとして、そのツケがしっかり回ってきてしまい、あっというまに三人ともリストラの憂き目に遭ってしまいました。 

要領が悪いっちゃワルかったんでしょうね。

正直者ってことで、それは仕方ないとしましょうか。

同病哀れみあい、趣味と実益なんちゃって今日もまた競馬場通いなんかしてしまったもんですから、ナケナシの小遣いが泡と消えたのも頷けましょう。

なにせ、ツケはしっかり来ましたが、ツキは逃げっぱなしなんだもの。

すると今度はどうにも家に帰りづらい。

嫁はきっと鬼変化する。だって、仕事探しに行くって出て来たわけだし。

「さぁ、どうするよ・・・」「んじゃ、いつものように・・・」「野宿する?」

時は夏。

その辺に寝っころがてもよもや風邪などひかないだろうと地下鉄構内の寝ごろな場所を物色する三人組でございます。

まぁ、そんな短絡的思考を持つお方は昨今ごまんとおりますから、手ごろな場所はすでに満杯。

そいつらを横目になおも探しておりますと、とっても不穏な場面に遭遇してしまったのですな。

長田真理・・・お定まりの展開じゃぁありませんか!

ホームレスと呼ばれる一人のお爺様をイヂメている若者二人組みが目に入ってしまったのです。

「ど、どうする?」「んなこと言ったってさ、かかわりたくないじゃん」

「・・・そうも行かなそうっすねぇ」

若者達はくるぅりとこっちを見ていたのです。

ギラギラした目つきは、こりゃ所謂ヤク中ってやつらしい。

「うひゃ!」「これは、もしかしたら」 「オヤジ狩り?!」

「おい・・・こっちに来たぞ」「ふん、なんでぃ、あんなガキども!」「こら、なにする気だ?」

三人はこそこそとお互いをつっつきあっていると、二人組みの若者が不敵な笑みを浮かべて近づいてくる。

新しい美味そうな獲物を見つけたってな顔つきだな・・・

「お、おりゃぁ、二段の腕前なんだっ!」「・・・?ってこらっ、木下!!やめろっ!」

突撃モードの木下を抑えようと手を伸ばした三河を助けようともせず、いつものポーっと間延びした顔で小田がポソっとつぶやく。

「二段ってさ・・・」「え?こら、お前も手を貸せっ!」

グルグル喉を鳴らす木下を三河は必死で押さえていたが、戦闘体勢の木下に振り切られてしまった。

「あいつの二段って、お習字だろ?」「・・・・(ToT)」

ま、幸いバタフライナイフの餌食になるまでも無く三人はボコボコにされたんですがね。

慰めあい、労わりあっていると、例のホームレスがひょこひょここっちに来るではありませんか。

異様な臭いが漂ってきましたが、三人は身動き出来ませんから、鼻を押さえて彼を見上げたんですな。

「タスケテクレテ アリガトゴザイマスダアケミ。オレイガシタイノデ キテクレマスガモ?」

ホームレスのお礼って・・・一体・・・

「いや、別に俺ら、あんたを助けたってわけじゃありま千田ヶ谷」「そうそう、お気になさらず西麻布」「ほおっておいてくだ埼玉」

わけのわからん下枕詞の癖が移った三人を見つめて、ホームレスは欠けた前歯でラブリーにニッコシ笑い、思いのほか大きなマナコをキラリンと光らせると、肩に掛けていた汚いマント風なモノを脱いで三人にふんわり被せた。

「ソウ オッシャラズンダモチ、キテクレナイト ボク シカラレマスダコ」

言い終わるか終らないか、彼らの周りは異臭とともに煙が立ち込めた・・・

「いやダンゴ〜」「やめてくレンコン〜」「食べないデンガク〜」

そうして彼らの姿は跡形も無くなっておりました土佐。

****

「オツレイタシマシタガワヨウスケ」 ホームレスがマントを外した。

三人は強烈な臭いと煙のせいでまだ目を回している。

「これが そうか・・・・ふん、なるほど・・・」

「ナカナカ イキノアッタ サンニンデゴザイマスガモ。コレナレバ アノ クワダテモ ウマクイク ハズバンド」

陰々と響くふたつの声で 三人はやっと気がついたようです。

「あ〜〜ここは どこぉ?」 「え〜〜アタシは だぁれぇ?」 「い〜〜今 なんじぃ?」

「お気がつかれましたか?」

清らかなる賛美歌のBGMが聞こえてくるような、清楚な西洋の尼さん風の美人が三人を覗き込んでいる。

三人は辺りをぐるりと見渡す。

地下鉄構内ではない。

とてつもなく高い天井には微かにフレスコ画が描かれている。

モチーフは・・・判別できない。

明かりといえば壁に無数に並んだ燭台の蝋燭と、巨大なシャンデリアだが、天井があまりに高いので蝋燭の光は床まで届かない。

東京ドームくらいの広さがあるように感じられる。

暗いので、奥行きが判らないのですな。

しかも、あまりのべっぴんさんに、三人はココがどこでも構わない気になっちゃっているのです。

気分はとってもハイですから(なぜか)、殴られたときの傷が消えていることには気付いていない模様・・・。

そこはかとなく、高貴な薫りが漂う中で、木下だけはちがっておりました。

「・・・腹減ったぁ・・・美味そうなにおいがするぞぉ〜?」

尼僧風の美女がくすくす笑っている。

「みなさま、先ほどはわたくしどもの大切な友人を助けていただいて、ありがとうございます。そのお礼に、ささやかですけど お夕食を用意させていただきましたの」

「え?!そうですか〜えへへへ・・・」

ヨダレを垂らさんばかりにしている木下を押さえて三河が分別臭く言った。


「おお、そんな お構いなく!おれら助けたっていうより――」

「新たなエジキになっただけっていうのが正しい」 小田がポーっと引き継ぐ。

「ふふふ。それでも、あの者にとっては、あなた方と出逢ったことは何よりの恵なのですわ」

「?どゆことっすか?」木下が無遠慮に言ったが、美女はただ美しく微笑んだだけだった。

「さぁ、みなさま、ご遠慮なく、こちらに・・・」

次の間も、先ほどに負けず劣らずだだっぴろい部屋だったが、真中に遠近法を無視したくなるような巨大な食卓があって、山海の珍味が所狭しと並べられていた。

「うっひょぉ〜」「すんげぇ」「まるで宮廷料理だ」

三人は寄せ来る空腹の高鳴りには勝てず、体中を口にして次から次に平らげていった頃、くだんのホームレスがこざっぱりななりをして現れた。

「ミナサン アラタメテ オレイモウシアゲマスガモ。デモッテ、ショクジヲシテクレテ カンシャシマスミダガワ」

「おお、あんた香川!」

「あら、コザッパリしたの根室」

「いったい これは どういう訳酒田?」

小田は意外と冷静な男かもしれない。

わらわらと ホームレスを取り囲んで質問攻めに転じようかとしているところへ 先ほどからの美女がすぅぅっと近づいてきた。

「みなさま、お食事は楽しまれましたのね?」

「はぁ〜〜い♪」「なにもかもがうんまいっす!」「で、お名前は?」

ホームレスなんかより美人が大好きな彼らですから(誰だってそうだ)、質問攻めを始めようと意気込んだとき、突然背後からホームレスが怒鳴った。

「ヅガタカイドイッチョウメ! コノカタヲドナタトココロエルンペン!?」

「水戸こ〜もん?」つい、条件反射で水戸出身の三河が茶化したとたん、美女の姿が消え、かわりにそこに立っていたモノは ―――!

****

朝である。

ぱっちりマナコのホームレスが三人を覗き込んでいる。

「メガ サメタカイド?」ひんやりした地下道が心地良・・・くない。

いやに冷たいではないか。

夏の時期、朝とはいえエアコンの世話にならずば汗みどろってとこなのに、三人はガタガタと震える体をもてあましていました。

「寒いじゃないか!」「気象庁は何してるんだ?!」「あれぇ、ここってさぁ」

むっくり体を起こして見渡すと、見ず知らずのお仲間達は調達してきたダンボールだのマットレスだのにくるまって横になっている。

どこから運んだものなのか昔なつかし七輪なんぞで暖をとっているのもいる。

(いいのか?駅構内だぞ。防火装置は作動しないのか?←というつっこみはシテハイケナイ)己らは安物のTシャツ一枚(柄は派手め)なのに、彼らはしっかり厚手のジャケットを着込んでいる。

「ソコデ キミタチヘノ シレイダガンモドキ、イチドシカ イエナイカラシュッチョウ、ヨク キイテイロハニホヘト。ナオ コノ テープハ ジドウテキニ ショウキョ スルモンネリマク」

ボカッ(←お習字検定有段者によるホームレスへの暴行の音)!

「イッタイィィ!ナニスルガダイ!!」

「即刻 消去されちまえ!」

「まぁまぁ、なんか 尋常じゃなさそうなかんじだぜ」

「ちょっくら 聞いてみんべよ、こうなったらさ」

蹴られた脛を撫でていたホームレスは涙目で「シレイ」を語りはじめた。

****

m(T_T)m「ワガ ケイアイスル ぺるそなサマカラノ「シレイ」ヲ シモベノ 3ニンニ ツタエルンバ!」

「だぁれが しもべだっ帝塚山?!」「そんなもんに なった記憶は無い象?」

「(`_´メ)」ボクッ★(← 簿記検定1級取得者がケツをひっぱたいた音)!

しかし、ホームレスの必死の説明(必死になるところが 憎めないんだなぁこれが・・・)により、

(◎_◎) (☆o☆) (?_?)

三人は徐々に顔面蒼白変化したのである。

・・・脳味噌フリーズした三人に代わり、説明しよう!!

ホームレスによる、ペルソナさまからの伝言。

@時代を遡る事 20年ほど前(詳細は不明)にタイムワープさせてやった。

A三人はお互いは普通に会話できるが、他人に対しては「三つの言葉」以外を使用してはならん。

B三つの言葉を適切に使用できたとき、「シレイ」は解除され、元の時代に自動的に戻れること。

「なぜ、それが俺らなんだ?」「自分でやれんのか、あのオンナ?!」「目的はなんだ?」

ホームレスは大きな瞳を突如ウルウルさせて告白しはじめた。

「ぺるそなサマハ ゴジブンデハ コノジダイニ モドレナイワケガ アルラシイノガシラ。ジョウケンニ アテハマル 3ニングミヲ ミツケタノハ コレガ ナンドメカ ワカラナイガ コトゴトク シッパイシテイルノダンゴ3キョウダイ。」

「失敗した?」「そいつらは どうなったのさ?」「まさか・・・」

ホームレスは大きな瞳をきらりんと光らせて嬉しそうに一言 。

「ショウメツ〜〜(^〇^)♪」

駄洒落が出ないホームレスの様子に三人は冷えた体を一層縮こめた。

 ***

水戸に汚い小袋を渡すと、

「コトバハ ミッツダケダガンダム、シカシンバシ、コレガアレバ カネニハ コマラナイチンゲール」

念を押しつつそう言うとホームレスは例のマントをひるがえし・・・そうになったのを木下がむんずと捕まえた。

「ワッ!ナニスルガダイ?」

「金には困らな飯塚市?」「そりゃぁ 良い事聞い田原坂!」「・・・しかし、なんか 胡散く賽の河原」

とりあえず、実験しようってんで、木下がホームレスを捕獲しつつ、地下鉄構内の蕎麦屋までやってきました。

(注意しろよ)(順繰りに言うんだな)(余計なことを喋んなよ)

立ち食い蕎麦屋である。妙に郷愁を誘う香りが漂っている。

あんなに「宮廷料理」を堪能したはずなのに、腹が鳴るのは何故だ?

「へい!らっしゃいっ」

客を見ようとはせずに 黙々と蕎麦を茹でる店主に向かって、まず 水戸が恐る恐る声をかけた。

《オレタチ サンニン》「三人前で?」 次は木下が――

《・・・カネ ホシサニ・・・》「?金?まぁ、誰でも欲しいですがね。蕎麦でよろしいんで?」続いて小田が――

《ソレハ マッタク ソノトオリ!》「・・・あ、ありがとうございます。蕎麦3丁!》

怪訝そうに店主が三人の前にかけそばを ダン デン ドン と置いた。

水戸が小袋から代金を渡すと、ずんとした重みの手ごたえが返ってきた。

(増えた!?)(ほ、ほんとだ)

(\(^o^)/ )ぎゅうぅぅっ★(← PC検定3級取得者がホームレスに握手した音)

三人はそそくさと蕎麦をかっこんで(急いで喰った表現)、水戸は小袋を胸に抱え、木下はホームレスの首根っこを抱え、小田は人を掻き分けて、誰も居ない場所を探して走った。

「う、うまくいったじゃん」「っつうことは〜」「う、馬!馬行こうぜ!!」

ウギャハハハ、勝ったも同然! と高笑いの3人を上目遣いで見つつ、

「アノゥ、モウ ハナシテクダサイマセンダガヤ〜〜?」

「ふんっ、そうはいかねぇぞ」「逃げられてたまるかい」「ペルソナに繋ぎつけられるのはお前だけだろう」

「ソ、ソウデハアリマキネン。イイワスレテタコトガアリマキネン。ぺるそなサマノ シレイノ キゲンハ イッシュウカンデアリマキネン。イチビョウデモ スギルト ジドウテキニ ショウメツスル ノデアリマキネン」

「(▼▼メ)」びぃぃん★(← 危険物乙4種取得者がホームレスにデコピンした音)

「消滅って、てんめぇ・・・」「もっと、早くそういう事はいうべきですね」

小田がとっても静かに怒っている。ホームレスは木下の実力行使よりも 怯えた。

「ト、トニカクダンザカ、テアタリシダイニナルトオオハシ、ミッツノコトバヲ タメサナイトウオンセン、マズイトオモイマスガモ」

拙いったって、ペルソナの目的がいったい何なのか、ホームレスにはわからない。

いいや、当のペルソナすらも、条件の合う三人組に三つの言葉を与え、適切な使い方が出来た後どうなるのか判らないと、ふと洩らしたことがあるのだとホームレスは悲しそうに言った(下枕詞無しで)。

何かにせかされるように、ペルソナは過去で探し物をしているようでございます。

***

たいがいの物は小袋の金と「三つの言葉」で賄う事ができたので、三人の姿は見てくれだけは小奇麗になっていたし、生活もまぁまぁだった。

ただし、金は何故かレシートの金額に対して三倍になるだけだったので、各々の懐に貯金というわけにはいかなかった。

「しっかりしてるぜ、ペルソナさんよぉ」「やっぱ、女だぜ」 「ちくしょうめ」

レシートがいちいち必要とあっては、賭け事にも使えない。

途方にくれていた三人でございます。

 とにかく、期限までになんとかしようと頑張ってみたものの、お手上げ状態。

これじゃぁ、何組ものチャレンジャーが消滅の憂き目にあったのも頷けると 深い溜息の三人でした。

ホームレスも、ちょっと目を離した隙に、逃げちまったし。

「おれら、もうダメかも」「なんかさ、女房に会いたくなってきたな、俺」「うん・・・行ってみる?」

しかし、20年前といえば 嫁たちはまだまだ幼いはずだったし、三人の故郷もまたバラバラだった。

「しょうがねぇなぁ」「このさいさ・・・」「ぱぁっと 豪勢に最後の夜を楽しむとすっか?」

消滅とは、この世に存在しなかった事になるんだと、ホームレスが言っていたことを思い出したのであります。

「生まれなかった」ことになるということです。

そんな強大な呪いをかけられる力を持つペルソナが 何故、自らはタイムワープ出来ないのか・・・

彼らはその秘密を探ろうとも、詮索しようとも思わなかった。

その辺の脳天気さが 選ばれた理由の一つだったのでしょうか。

「消えるなら 綺麗サッパリ」「跡形もなく 美しく」「美味いもの喰おうぜ!」

三人は目の前にそびえる 超豪華な超一流のホテルを見上げております。

****

しかし、悲しいことに貧○症の抜けきらない三人は見上げた目を地面に戻しました。

「酒」 「ん!」「あ、あそこ・・・」

路地裏からかすかな灯火が漂い出ております。

時は夕暮れ、薄暮闇が物悲しい。

今夜で消滅と思うと、我が身の不幸を嘆く気にもなりません。

キャピキャピのキャバレーで存分に騒ぐことも考えましたが、なぜか静かに飲みたくなった三人でありました。

カランと鳴るドアを開けると、静かに流れるギターのソロが郷愁を誘い、暖かな空気が身を包みます。

『いらっしゃいま千駄ヶ谷・・・』

ギターを弾いていたのはバーテンダーの若い男でした。

爪弾くのを止め、カウンターごしにメニューを渡します。

(?)(どっかで見たことがあるような・・・)(千駄ヶ谷・・・って)

≪・・・オレタチ サンニン≫ 水戸がメニューのビールを指さす。『はい』

≪カネホシサニ・・・≫ 木下が極少の声で囁く。『私もです(笑)』

≪ソレハ マッタク ソノトオリ!≫ にっこり笑って小田が続ける。『どうぞ・・・』

黄金の液体は小さな気泡を優雅にたてて三人の前に差し出されました。

ゆっくり喉を通ると三人の目が自然に潤んできます。

(うんめぇ)(なんか普通のと違うなぁ)(ToT)

バーテンダーは何も聞かずに、またギターを取り上げて弾き始めました。

静かに時は流れてゆきます。

このまま消滅するのも悪くないかなぁと三人が思い始めておりました。

未練が無いわけじゃないけれど、人生の最後がこんなに心地いいなら、それもシアワセというものかもしれません。

『みなさんに 良いものを奢りま巣鴨』

バーテンダーがカクテルグラスに 海の色のカクテルを注いでくれました。

(きれいだなぁ)(涙色ってか?)(故郷の海だ・・・)

バーテンダーはギターを静かに鳴らします。

すべるような指使いです。音と音の間に感情が表現されているようです。

≪オレタチ サンニン≫ ≪カネホシサニ≫ ≪ソレハマッタクソノトオリ≫

いまさら三つの言葉を使わなくても どの道消滅してしまうのですから どってことなかったのですが、このときばかりは、本音で言った三人でした。

その証拠に三人は滂沱の涙です。

そのときでした!

****

カランと鳴らしてドアが開きました。

清楚、可憐、儚い・・・そんな形容詞が浮かぶ若い女が入ってきたのです。

(!)(!!)v(^O^)v

「成樹さん・・・」 女の声はか細かった。

「美織・・・お前、何故?」 バーテンダーがギターを抱えたまま立ち上がる。

(!)(!!)m(T_T)m

せっかく涅槃に入りかけたというのに、好奇心に簡単に負けた三人は興味津々二人を交互に眺めています。

女が口を開きかけた時、背後からぬぅっと二人組みが現れました。

(!)(!!)o(~_~+)x

地下鉄構内に出没にされていた あの、ヤク中のオヤジ狩りの若い男たちです。

三人がなす術も無くボコボコにされたあのガキどもです。

三人をこんな奇妙奇天烈な運命に陥れた原因菌です。

水戸と小田が木下を押さえ込んだことは言うまでもありません。

お習字二段じゃぁねぇ・・・

しかし、今は確か、あれから20年前のはず。

なんで ここに、この二人組みがいるんだ?と読者諸兄はお思いになるのが当り前なのですが、この三人は気付かないんですね、これが。

「やっと見つけたぜ、シゲキさんよぉ」「オトシマエはきっちりつけてもらうぜ」

『女は関係ないはずだ!』

三人は店の隅に避難して事の成り行きをじっと見守っている。

(おい)(この展開は)(まずい!ヒジョーにマズイ)

っと思ったらさっさと逃げ出しゃいいのに、そうしない彼らってイッタイ?

美織という女は恐怖で声も出せないでいる。

蒼白な顔が場違いに美しかった。

シゲキと呼ばれたバーテンダーはギターをそっとカウンターに置くと、女に近づいていく。

「ご、ごめんなさい・・・あたし・・こわくて・・・」『いいんだ。気にするな・・・』

(おい、ダジャレが出ねぇぞ)(マジってことだな)(こいつ、まさか、あの・・・)

やっぱし、小田は変なとこで冷静なヤツである。

「お前の命で支払ってもらうぜ」「覚悟せいや」

バタフライナイフだ。

止める間もなく音もさせずにバーテンダーの胸をえぐった。

静かに倒れていくバーテンダーの目はじっと女に注がれている。

女は・・・・ 無表情だった。

凍りついた頬は彫刻のそれのようだ。

その彫像が口を開く。

「早く始末しな・・・」

若者の一人がナイフの柄に点いた自分の指紋を丁寧にふき取る。

そしてもうひとりがスミで固まっている木下を連れてくるとバタフライナイフをしっかり握らせた。

その間に女は救急車を呼んでいる。

「・・・人が・・・成樹さんが 刺されて・・・早く!お願い!救急車をっ!」

怯えた声でそう言った。

三人はバーテンダーが絶命していて良かったと何故か思ってしまったのでした。

警察で事情聴取を受けているのは何故か三人でした。

容疑者扱いであります。

なぜなら、女と若者ふたりが、三人がやったと、殺人の現行を目撃したと証言したからです。

しかも、三人は殺人犯の汚名を着たくは無かったので、消滅覚悟で喋ろうと思ったのに、自分の担当する例の三つの言葉しかでてこなくなってしまっていたのでした。

「で、誰が刺したんだ?」

≪オレタチサンニン≫(T-T)

「動機は?」 ≪カネホシサニ≫(T.T)

「三人で共謀したんだな?」 ≪ソレハ マッタク ソノトオリ≫(ToT)

瞬く間に裁判が進んでいきます。

強盗殺人事件は立証され彼ら三人は15年の刑が確定されてしまいました。

“あんとき 大人しく消滅しときゃよかった”と悔やんだところで後の祭りです。

今更自殺ってのも悔しいし、運命のまま身を任せてしまえと開き直るしかありませんでした。

三人は護送車に乗せられます。

冤罪というにはあまりにもバカバカしくて涙も出ません。

胸がはりさけそうなのに、吐いて出てくるのはため息ばかりです。

≪Huuunmm〜〜〜≫ 何度目かの溜息を深ゞと吐いたときでした。

隣りに座っている刑務官がぼっそりと囁きました。

「タスケテサシアゲマスガモ・・・」

「あ――っ!てんめぇ――っ!!」

 ****

瞬間、三人は元のあの夏の日、地下鉄構内のあの場所にいました。

そして目の前にはギターを抱えた成樹と美織がぼんやりと立っています。

「あのとき 本来の時間軸では私が成樹さんを刺したのです。この人、女癖もお金にもルーズで私、心底疲れ果ててしまって・・・」

『僕は本気で惚れていた女に突然刺されて、訳が解りま千駄ヶ谷でした』

「そして私はそのあとすぐ自殺したのです」

「あ〜〜〜っ!」 大声を出したのは木下でした。

「あんたペルソナ?!」その問いに対して美織は本当に何も知らないようでした。

「どなたですの、それって?」

「HUNGA〜〜っ」「いいんです」「なんでもないです」 

水戸と小田が木下を羽交い絞めにしています。

あの、ヤク中の若者たちは成樹の借金の返済を執拗に迫っていた。

美織はまず彼らを殺したのだと言う。

それから成樹を刺し、自分を刺した。

「でも、自殺するとき、自分の望んでいた人生とは違う、こんなはずじゃなかったのにって、すごく悲しかったの」成樹がしっかり美織を抱きしめる。

「なるほど〜」「だからペルソナにぃ・・・」 ボクっ★(←小田が木下をドついた音)

「そうですか――」

彼女のあまりに切ない女心がペルソナを生み出し、ホームレスを存在させたのだろうと 三人は勝手に納得する事にした。

ノーテンキな三人組を選ぶという“ペルソナ”の選択は正しかったのだ。

シアワセそうに消えていくとき、“ホームレス”が一言、言い置いて行った。

『オレイヲ シマスガモ ――』

「お礼ってなんだろうねぇ」「いらねぇーや、もう!」「おい・・・袋に金が残ってるぞ」

これが“礼”かもぉ?

っとばかりにパァっとハナバナしく使ってしまおうと、

馬行くぞ、馬!!

ってんで、三人はジリジリと照りつける中を馴染みの競馬場に取って返しました。

「ふふん・・・あれ?」「今日ってさ〜」 「おい。まさか・・・?」

彼らの時間は あの日よりすこぉし前に戻っていました。

史上最高の万馬券が出たとNEWSで騒いでいた あの日にです。

当たり馬券はすでに知っています。

袋の中にはきっかり12万が入っていましたので、全部 それにつぎ込みました。

一万倍です。

三人は分不相応の“お礼”を頂いて、身の震えが止まりませんでした。

『オレイデスルガダイ〜〜〜』 ホームレスがにっこし笑った気がした三人でした。

―――  完 ―――

*** グリム童話 「三人旅稼ぎ職人」より ***

とさつごっこ

ヒーロー

 眉目秀麗かつ神童と呼ばれた少年がいた。
彼は幼い頃から近所の子供達とも良く遊び、母親達から絶大な信頼をも得ていた。
曰く、彼と付き合う子供達はことごとくよい子になる、曰く、勉強も出来るようになる、言いつけも良く守る・・・等など。

 彼らが幼稚園時代、仲間の一人が事故で亡くなった。
ウルトラマンごっこの最中に怪獣役になった子供が「タタカイ」の際転んで石に頭をぶつけた事が原因だった。

 小学校の時、その頃流行っていた熱血教師ドラマの真似をしていて川に飛び込んだ際、
不良少年役の子供が急流に流されたまま幸恵不明になった。

 中学校では刑事ドラマのワンシーンがカッコイイとかで、刑事役の子と犯人役の子が追いかけっこしていたが、
急に車道に飛び出した犯人役の子が車に接触し重症を負った。

 高校時代になるとさすがに受験や部活動で忙しくなったのだろうし、仲間たちも進路が分かれて一緒に遊ぶ
という事は無くなったが、かの少年はますます神童ぶりを発揮し、日本でも有数の進学校にトップ合格、
一年から生徒会会長を務めていた。
 彼が3年のときある教師が自殺した。原因はわからなかったが、生徒を成績だけで区別する嫌われ者の教師だったので
誰も気にもとめなかった。

 そして僕は大学時代に司法試験と上級国家公務員試験にW合格し、
卒業後、警視庁の幹部候補として職務に励んでいた時、国会議員だった父親が急死したので
代わりに国会議員選挙に出馬してトップ当選。
じっと10年ほど国会を見てきたが、なんと汚い世界だったろう。
 僕は許せなかったが、辛いのを堪えて今までのように急ぐ事はしなかった。

 そして今やっと総理大臣の椅子が僕のものになったのだ。
僕の目的はただひとつ・・・。僕の絶対の正義を世界に広めること。

 僕は今まで一度も、どんな時でも悪を許した事などは無い。
それが例え子供のごっこ遊びの時でさえだ!!

 父親もまた許せなかったし・・・。

   そう、隣りのあの国・・・もだ!!

― 子供達が賭殺ごっこをした話 ―

ガチョウ番の少女

ガチョウ番の女

ある国の皇女が隣国に嫁ぐことになった。

彼女はほんの少し婚期が遅れていたので、あまり派手な事は好まず、一人の若い腰元と、身の回りの品とだけで白い馬に乗って嫁いできた。

もう少しで王宮に到着するというところで、突然腰元がこう言った。

「姫様、どう見ても私の方が初めて嫁ぐ皇女に見えましてよ」

腰元はいつの間にか握っていた石で皇女を殴りつけ、衣服を取り替え、白馬に乗ってさっさと行ってしまった。

 皇女が気づいたときには王宮で婚礼の儀式が始まっていたのである。

 皇女は婚礼のどさくさに紛れて王宮の台所にもぐりこみ、なんとか仕事にありついた。

 皇女に与えられたのは、口のきけない老人ともにガチョウの番をすることだった。

毎日毎日ガチョウを餌場に連れて行く仕事で、退屈ではあったが皇女はこの王宮にどうしても居なければならない理由があったのである。

 皇女は自分の白馬をなんとしても取り戻したかった。

人語を解し、喋る事のできる馬であったからだ。

しかし、ある日王宮の裏門の壁に白馬の首が架かっているのを見つけた。

腰元が切らせたらしい。

“このことを、お国の父上がお知りになったら、大変な事になるでしょう”

白馬の首は皇女が通るたびに言ったが、それ以上は喋れないらしいので安心する事にした。

ガチョウを水辺に追いやり、春風に金の髪を梳かしていると、口のきけない老人が隣にすわったので、皇女はつい気安さにつぶやいた。

「私が本物の皇女です。今すぐこの国を出て行くこともできますが、父王の命を受けているので暫らくは居なければなりません。幸い、あの白馬は首だけになって、力を失ったようなので私の秘密を知るものは誰も居なくなりましたから」

すると突然老人が立ち上がってこう言った。

「私があなたのお役に立ちましょう」

老人は現在の王の兄だが、昔、姦計によって王位を剥奪されてしまい、口がきけなくなったふりをして命を永らえていたのだという。

皇女は大層驚いた。

秘密を知られてしまった以上、この老人を味方にしておかねばならない。

皇女は老人の手をそっと握った。

それから皇女は王宮へは戻らず、元王とともに父王の国に走った。

父王は皇女の報告を受け、そのまま進軍し、嫁ぎ先の国をあっというまに攻め滅ぼした。

元王はこの戦いの際に傷つき、そのまま亡くなってしまったので、この国もまた父王のものになった。

「皇女よ、そろそろ、次の嫁ぎ先をさがさねばの」

「はい、お父様」皇女は微笑んだ・・・。

*** ガチョウ番の少女 ***

シンデレラ

靴をはく女 (シンデレラ)

国中で一番の美少女がいました。

家も大層お金持ちなので、美少女は何もせずとも良い暮らしをしていました。

母親は早くに亡くなり、継母がおりましたが、2人は本当の母子のように仲良く暮らしていました。

しかし、良い事は続きません。ある日、父親が不意の病で死んでしまいました。

暮らしのために継母は仕方なく商売をはじめました。

何もしたことが無い女が手っ取り早く稼ぐ方法はひとつしかありません。

美人の誉れ高い二人の商売は順調でした。

あるとき、その評判を聞きつけた王子さまが、お忍びでやってきました。

美少女ももちろんよかったのですが、王子は継母の魅力のとりこになってしまいました。

夜の闇の中で見た目が何の役に立つでしょう。

ぜひともこの継母と結婚したがりましたが、一国の王子にふさわしいのは若い処女に決まっています。

わがままは許されませんでした。

そこで王子は一計を案じました。

王子は花嫁を選ぶための夜会を催すように父王に頼みました。

それから王子は靴屋にダイヤモンドを散りばめた靴を作らせました。

これなら、ぼんやりした灯火の中でもキラキラと輝き、ひと目で誰だかわかるだろうと考えたのです。

夜会当夜、着飾った女達で城はあふれており、灯明だけでは誰が誰やらわかろうはずはありません。

王子は自分の計画が的を射たものであることに満足しました。

踊りの輪の中を縫うようにして、かのダイヤモンドの靴を探し回りました。

すると、ありました。

ちかちかと煌めく靴をはいた女の手を取ると、王子は踊りもせずに自分の寝室に連れて行きました。

父王は花嫁が決定した事をみなに知らせました。

城はそのまま婚礼の準備に入りました。

朝の光に、隣で健やかな寝息を立てている新妻を見て、王子は驚きました。

なんと可憐で若く美しい娘でしょう。

・・・間違えたのです。

継母ではなく、美少女の方でした。

確かにダイヤモンドの靴がベッドの下に落ちています。

王子は、寝顔を見ているうちに、これから隣に座るのは年増女よりこういう美少女の方がいいかな、と思ったので喜んで結婚式をあげてしまいました。

王子が頼んだダイヤモンドの靴は二つありました。

継母と美少女用に作らせたのですが、ひとつはただのガラスでした。

ダイヤモンドは靴屋が少し自分のポケットに入れてしまったので、サイズが小さくなってしまったのです。

そして、足は美少女のほうが若い分、少しだけ小さかったのです。

*** シンデレラ姫 ***

老人と孫
応 報

一夫は黙って耐えていた。

今年70になる母親を妻の幸枝が箒の柄で殴ったのだ。

「やめておくれよ・・・」 母親は悲痛な叫びを上げる。

すると幸枝は、

「黙れっ!近所にきこえるじゃねぇかっクソババアっ!!」とまたも箒を振り上げた。

母親は痴呆症が進みはじめて失禁が多くなってきているらしい。

今朝も濡れた布団に腹を立てた幸枝が金切り声で母親を叱っていたのだ。

「おい、幸枝、母さんに何言ってもしょうがないだろう?」見るに見かねて一夫が言うと、

「なら、アンタが面倒みなさいよっ、大体アンタの親でしょう?なのに、一日中付き合うのはアタシなのよ、あ・た・しっ!!」

幸枝がイライラするのもわかるので、一夫は黙っているしかなかったのだ。

「お腹すいたよぉ・・・」 母親は一夫のTシャツの裾を握って言った。

「もう!さっき食べたじゃないのっ!」幸枝が箒をつかむと、母親は怯えた猫のように部屋の隅に縮こまってしまった。

そんな生活がどれくらい続いただろう。

春も深まったある日、いつものように幸枝が箒を持って母親を追い掛け回すのを4才になる娘の陽子がじっと見ていたが、とことこと物置のある庭に出て行った。

その夜、一夫が帰宅すると幸枝の姿はなく、台所にエプロン姿の母親が立っていた。

「か、かぁさん?」

「あら、お帰り一夫。早かったじゃない。さぁ、夕飯出来てるのよ、食べましょ。ようちゃん、パパにご飯よそってね」

「はぁい、おばぁちゃん」

「ど、どういうことなんだ・・・かぁさん・・いったい・・・」

「あのね、パパ。ようちえんのせんせいがね、あしたは“ははのひ”だから、お母さんをたいせつにしましょうっていったの。でも、ようちゃん、どうしていいかわかんなかったから、せんせいにきいたらね、そしたら、せんせいがね、お母さんがおばぁちゃんにするようにしてあげればいいのよって言ったの!」

隣りの母親の部屋で幸枝はオムツとヨレヨレのパジャマを着て寝ていた。

血溜まりのなかには古びた金属バットが投げ出されている。

「この日を待ってたのさ・・・」 老いた母親は薄く笑った。

**** グリム童話・よぼよぼのおじいさんと孫 より****

**** グリムの世界― 了****