ビラコチャ神 |
◆チチカカ湖の中から ぬぶぁっと出てきた者がいる。 ビラコチャ神である。 「暗ぇな・・・」ってんで大小の光り輝く円盤をいっぱいこさえると天空に放り投げ上げた。それは太陽と月と星になった。 大地もこさえると、「ん〜なんか 寂びシィじゃん〜」と石をつまんだ。 「どんな形にすっかなぁ?」としばし思案。 「ま、いいか。ワシがモデルだべぇ〜」と人間を造った。アルカ・ピサである。 「お、ワシってば結構ゲイヂツ家じゃん?」と調子こいて どんどんこさえた。 「よっしゃ、んじゃ、おまえら、ワシに付いて来い」っつって神はクスコに着いたので「お前ら、ここさ住め」と言い、アルカ・ビサに「お前は皆の首領になって、治めるべし」と言い聞かせた。 ビラコチャ神は万物創造の仕事を終え、自己満足し、またチチカカ湖に沈んでいった。 ◆あるときビラコチャ神がチチカカ湖から ぬぶぁっと出て、西の方に旅をしていると、人間達が騒いだ。 |
マンコ・カパック神 |
◆マンコ・カパック神は大地に住む者が居ないのを寂しく思ったので、土をこねて様々な人形をこさえた。 そして、人形達に命と魂を与え、言葉と歌と食い物の種を与えると、『お前ら、一旦土にもぐりこんで、好きな土地に行って住め』と言った。 しかし、人形たちが各々好きなところに出ると、ある者は人間に、あるものは禿鷹や鳥に、獣になった。だから、地上には色んな生き物がいる。 ◆マンコ・カパック神にはママ・オクリョという妹であり、妻がいた。 ◆クスコの地に太陽神から金と白銀と銅の三つの卵が送られてきた。 |
パチャカマック神 |
パチャカマックが土をこねて一対の人形を作った。 男女の人形に命の息を吹きかけるとすぐ動き出した。 しかし、男は食べ物を手に入れられなかったのですぐ餓死してしまった。 女は木の根や草の根を齧って生き抜いたが、一人ぼっちで寂しかった。 太陽神が哀れんで、女に一人の男の子を授けた。 するとパチャカマックがその男の子を殺して地に埋めてしまった。 すると殺された男の子の歯からトウモロコシが生え、あばら骨や肉から様々な食用の植物が生えた。 |
洪水伝説 |
ある男が一匹のリャマを飼っていた。 「さぁ、エサいっぺぇ喰えよ」と言うと、リャマは悲しそうにするだけで草を食わなかった。「なじょした?美味そうな草だべ?なんで喰わね?」 するとリャマが突然喋りだした。 《草が気に入らないんじゃないのです。悲しくて食べられないのです》 山にはあらゆる獣や鳥が逃げてきていた。 5日過ぎると水が引き始め、生き残った たった一人の男は人間の祖先になった。 |
トナパ神 |
トナパは村々を歩き回り、人々に有益なことを教えていた。 やがてヤムスキパ村にやってきたのだが、ここの人々はトナパの言葉に耳を貸さなかったばかりでなく、口汚く罵った。トナパが《ここの人間達は水底に沈んでしまうが良い》と呪うと、村はまたたくまに大水の下に沈んだ。 他の村では宴会の最中だった。トナパは人々の間を回り、色々な教えをしようとしたら、村人は口々に「酒の席でくだらねぇ説教すんじゃねぇよ、酒が不味くならぁ!」と言って彼をつまみ出したので、トナパは怒って《ここの人間達は石になってしまえ》と呪うと、村人は皆、石になった。 さて、トナパは、ある日カラバヤ山の近くに来ていた。彼は大きな十字架をこしらえて肩に乗せ、カラプク丘に運んだ。集まってきた人々に教えを伝えていたとき、彼は感極まり、涙が最前列に座っていた酋長の娘の頭にかかると、人々は「無礼者!」と怒り出してトナパを縛り上げ、カラプク湖の岩屋に監禁した。 トナパは暗い岩屋の中で、独り物思いに沈んでいると、目の前に一人の麗しい若者が立っていた。 【心配しなくても良い。私は天界からあなたを見守っている神からの使者である】そういうと、見張りの番人の目をかすめてトナパを岩屋から連れ出した。 トナパはカラプク湖に上着を投げ込んで舟にし、チワナクの町に入ったが、この町の人々も彼の言葉に耳を貸さず、娯楽に耽溺していたので、またしても石に変えてしまった。 こうしてトナパ神は自分の教えに従うものには幸福を与え、背くものを罰したあと、チャカマルカ河を下って海へ行き、姿をかくした。 |
コニヤラ・ビラコチャ |
コニヤラ・ビラコチャは悪戯好きな精霊である。 ◆さて、或ところにカビリャカという美しい女がいた。 それから9ヵ月後、カビリャカは父親のわからない男の子を生んだ。 「この子の父は誰でしょう?」そう聞きまわっても神々と精霊達は お互いに顔を見合わせるだけだったので、カビリャカは子供に探させることにした。 子供はヨチヨチと歩いていくと、美しい神々の前を通り過ぎ、コニヤラを見上げて微笑むと膝に乗った。 コニヤラは大笑いし、『汚い格好のワシに吃驚したんだろう。今度は立派な格好をして喜ばせてやろう』と彼女の後を追いかけた。 しかし、どこを探してもかのじょと息子の行方がわからないので、 そうしてコニヤラは海辺にたどり着いた。 しかしそこで、海に身を投げて石に変ったカビリャカと息子を見つけると、コニヤラはとても嘆き悲しみ、いつまでも渚に立ち尽くしていた。 ◆昔、海には魚がいなかった。 コニラヤ・ビラコチャは その噂を聞くと、いつもの悪戯心がでてきたので、ある夜女神の池に忍び込んで、池と海を繋ぐ溝を掘ってしまった。 池の魚はその溝を伝って、全部海に逃げてしまった。 |
ユパンキ |
ユパンキがインカの第10代目の王になろうという前の日、ススルプキオという泉のほとりにやってきた。 すると、一欠けの水晶が落ちてきたので拾うと、その水晶をじっと見つめた。 水晶の中に一人の男の姿が浮かび上がった。 【ユパンキ、ワシはそなたの祖である太陽である。そなたはこれから先、数々の民を征服し王となるだろうが、そなたの祖であるワシに犠牲を捧げ、心から畏れ尊ぶのを忘れてはならぬ】 ユパンキは王位につくと、水晶の男そっくりの像をつくらせ、犠牲を供え、壮麗な神殿を建てた。 |
パリアカカ |
◆昔、高い山の頂にどこからともなく5つの卵が現れた。 しばらくして4つの卵から4羽の鷹が出て、いつしか4人の強い戦士になった。 最後の一つからはパリアカカという英雄が生まれた。 パリアカカは汚い格好で色々な村を歩き回っていた。 「さあ、これをどうぞ。今日はお祭りなので、皆楽しく過ごさなくてはなりませんわ」と、酒を満たした盃を差し出した。 そうしてパリアカカは恐ろしい洪水を起こしたので、村人はみんな溺れてしまった。 ◆パリアカカはサン・ロレンソという村で美しい乙女を見初めた。 パリアカカは野山に棲む鳥や蛇やトカゲや狐を呼び集めると、堰や水道を作らせ、畑に水が行き渡るようにした。 『さあ、お前の願いは叶えたのでワシの妻になっておくれ』と言うと、チョゲ・スソは「もう一つ。私はあなたが作って下さった沢山の水道の中で、ココチャリョの水道が気に入りました。水の源のヤナカカの岩に棲みたいと思います」と言うので、そこで二人は住むことにした。 |
ワチアクリ |
パリアカカの子にワチアクリという若者がいた。 彼は父と同じくみすぼらしい格好をしていた。しかし、父から様々なことを教わっていたので大変賢い若者だった。 あるところに大変な金持ちの男がいた。 しかしあるとき男は急に悪い病に罹り、なかなか治らなかった。 ワチアクリは金持ちの男が気の毒になったので、助けてやろうと男の家に行くと、館の前には男の娘がいた。 ワチアクリは病人に向かって『あなたの病は奥さんが浮気をしていてあなたが邪魔になったので呪いをかけているためです。奥さんの悪巧みを暴けば治るでしょう』と言った。 ワチアクリが呪いの証拠を叩き潰すと、病人は瞬く間に元気になったので、金持ちの男は大層喜んで娘と結婚させた。 さて、娘とその兄は婿がいつも汚らしい格好をしているので気に入らなかった。 そこで兄はワチアクリに踊りと酒飲みの勝負を申し込んだ。 ワチアクリは困ったので父のパリアカカに相談すると、父はワチアクリを死んだリャマに変身させ森の中でじっとしているように言いつけた。 さっそく勝負が始まり、兄が衣装を付けてあらわれると、ワチアクリが出し抜けに大声を上げたので兄は仰天して逃げ出した。 |
インカ神話―了