イーリアス(ギリシャ神話)
プロローグ
ペーレウス王とテティス女神の間に息子が生まれ、アキレウスと名づけられた。アキレウスは大変勇気ある美しい青年に成長した。 ◇◇◇ その頃、オリュムポスの神々はいまだに黄金のリンゴをめぐって激しい争奪戦が続いていた。 ◇◇◇ 夫メネラーオスは兄であるミュケーナイ王アガメムノーンに訴えると、アガメムノーンは直ちにヘレネーの昔の求婚者たちに誓いを果たすように使いを出した。 さて、プティーア国アキレウスの親友パトロクロスも求婚者のひとりだったのでギリシャ軍に加わることになった。 |
1.アガメムノーンとアキレウス トロイア戦争が始まって9年目にギリシャ軍に大きな災難がふりかかってきた。 ◇◇◇ トロイアの海岸には2つの岬に挟まれた平らな砂浜があって、ギリシャ軍の軍船が並んでいた。 ◇◇◇ クリューセースはこの広場に案内されると、なみいるギリシャ軍の指揮官たちの前に立たされた。 ◇◇◇ 10日目にアキレウスが指揮官達を広場に招集した。 ◇◇◇ アガメムノーンの命令で一隻の舟が用意され、クリューセーイスはオデュッセウスによってテーベーの街の父の元に送りかえらせた。 ◇◇◇ 女神テティスはたいまちのうちにオリュムポス山頂へのぼっていくと、神々と人間の主神ゼウスが高い玉座に座っていた。 ◆◆◆ |
2.パリスとメネラーオス それからおよそ12日たった夜のこと、ゼウスはテティスへの約束を果たすためアガメムソーンに偽りの夢を見させた。ギリシャ軍はまもなく大勝利を得るだろうという夢だった。 トロイア軍は油断なくギリシャ軍の攻撃に備えていた。 ◇◇◇ トロイアのパリスの家ではヘレネーが亜麻布に刺繍していたが、パリスがヘクトールに戦いを挑んでいると聞くと、プリアモス王とその顧問たちがすわっているスカイア門のそばの望楼に向かった。 王は賢明な主任顧問官アンテノールを供に連れて、両軍が待っている平原へ馬車を走らせた。 ◇◇◇ ヘクトールとオデュッセウスは両軍の距離を測り、兜の中に入れた籤をふった。 ◇◇◇ 二人の一騎打ちをスカイア門の望楼からみていたヘレネーは、パリスが家で待っていると聞かされて驚いた。 ◆◆◆ |
3.ディオメーデースとバンダロス パリスがヘレネーを見つめていた頃、トロイアの平原ではまだメネラーオスが消えたパリスを探し回っていた。 何年にも渡る戦争に、トロイア人もギリシャ人も疲弊し、飽き飽きしていたので本来はアガメムノーンのいうとおりになるはずだった。 アガメムノーンは同盟軍の指揮官たちを回って檄を飛ばしていたが、中には命令が届かなかった指揮官もいた。 戦闘か開始されたときディオメーデスほど激しい戦いをした者はいなかった。 ディオメーデースを追って戦車を走らせていたステロネスは二人が近づいてくるのを察知し、 両者が対峙すると、パンダロスはその槍をディオメーデースの胸元目がけて投げた。 処女神アーテナーはギリシャ軍に、美の女神アプロディーテーはトロイア軍にそれぞれ味方し、戦闘は平原のいたるところでくりひろげられていた。 |
4.大アイアースとヘクトール ギリシャ軍の前進を押しとどめようとヘクトールが全力を尽くして戦っているところへ弟のヘノレスが近づいてきて、 ヘクトールが弟の家へいってみると、パリスは自分の美しい鎧兜の手入れをしているところだった。 ヘクトールはパリスの家を出ると、妻のアンドロマケーのもとへ寄った。 その頃、トロイアの平原にオリュムポスの山頂からアーテナーが舞い降りると、トロイア軍に味方するアポローン神が、 そこで、アポローンはヘレノスの胸にそのことを吹き込むと、弟は兄に向かって言った。 籤に当たったのはテラモーンの息子、背の高いアイアースだった。
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5.猛攻トロイア軍 長い一日は終わった。ギリシャ軍の将兵たちはそれぞれの軍船に戻った。 さて、明朝、トロイアの伝令イーダイオスはギリシャ軍の陣地へ赴き、プリアモス王の言葉を伝えた。 次の日朝早く戦闘が再開された。 ギリシャ軍はトロイア軍の攻撃を抑えきれなかった。 ドローンは闇の平原を足音をしのばせて海岸へ歩いていった。 ◆◆◆ |
6.アキレウスとオデュッセウス その頃、アガメムノーン王の心は、数々の不安に重く沈み、指揮官を招集した会議場でこう切り出した。 オデュッセウスとテラモーンの息子のアイアース、そして王の伝令二人と、アキレウスの養育係だったポイニクスが選ばれ、アキレウスの小屋へ使者に発った。 オデュッセウスたち使者がアガメムノーンの小屋に戻ると、ギリシャ軍の全ての王や王子たちがまだ待っていた。 ◆◆◆ |
7.スパイ メネラーオスは、友人たちが自分の妻ヘレネーのために敗北と滅亡の危機にあると思うと、眠れなかった。 再びギリシャ軍のすべての指揮官が会議場に集まると、ネストールが真っ先に口を開いた。 二人は平原の暗闇にまぎれて、茂みに隠れながらトロイアの野営地に近づいていった。 二人がその場所についてみると、ドローンの言ったとおりにトラーキア人たちは一人も見張りを立てずに眠っていた。 ◆◆◆ |
8.戦闘 暁の女神がアガメムノーンの胸甲を染める頃、ギリシャ軍は防壁と塹壕の前に集結していた。 一方ヘクトールはギリシャ軍の長老ネストールやイードメネス王、医者のマカーオンを相手に戦っていた。
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9.門が突破された ネストール老の戦車がマカーオンを乗せて海岸に近づいてきた時、遠く自分の軍船から戦闘を眺めていたアキレウスが気付いてパトロクロスに言った。 その頃、ギリシャ軍はまたもトロイア軍に追い詰められ、防壁の中に退却していた。 さて、テティスとの約束を忘れないゼウスは、栄光をヘクトールの上に与えた。 ヘクトールは防壁の真ん中に作られている一番大きな門を攻撃していたのだ。 そして戦闘はますます激しくなったのだった。 ◆◆◆ |
10.船団の傍らでの戦い パトロクロスが小屋を出て行くとネストールは戦闘の物音が激しくなってきたのを心配し「マカーオン、お前は動くな」と言いおいて外の様子を見に出掛けた。 4人の王が戦闘の仕度を整え戦場に戻ると、味方の士気を鼓舞して回った。 しかし、主神ゼウスはアキレウスのいないうちにギリシャ方に勝ちを与えなかったのでアポローンを呼び寄せ、一時戦場を離れたヘクトールに再び勇気と活力を与えよと命じたのだった。 ヘクトールが倒れたと思ったギリシャ軍は一旦は優勢になっていたが、ヘクトールが無事な上にますます元気に指揮をとるのを見て、またも勇気を挫かれ、全て防壁の内側に退却した。 ◆◆◆ |
11.わかれ 船団のあたりでの戦闘の物音が大きくなってきた。 ◇◇◇ 火を放たれた軍船のかたわらではトロイア軍が勝鬨をあげていた。 ギリシャ軍の勝利に酔ったパトロクロスは、アキレウスがすぐに引き返せと言ったのを忘れ、敗走するトロイア軍を城壁のそばまで追って行った。 ◆◆◆ |
12.息絶えた戦士 メネラーオスは勝鬨をあげるトロイア兵に気付き、パトロクロスが討ち取られたことを知ると 駆け出した。 アウトメドーンはヘクトールが追いかけてこないと知ると船団を目指して走っていたのをやめ、もう一度戦場へ引き返すことにした。 ギリシャ軍はトロイア軍の新たな攻撃に追いまくられ、これ以上は頑張れそうになかった。 ◆◆◆ |
13.出陣のしたく アンティコロスがアキレウスのもとに行き着くと、彼は心配げに小屋の外で待っていた。 少し離れた平原ではトロイア軍が明日の戦闘をどうするか議論していた。 ミュルミドーン人たちがパトロクロスの死体を洗い清めていた。 頂を雪で覆われたオリュムポスの山上ではテティスがヘーパイトスの館を訪ねて、アキレウスの為に新しい鎧兜を造ってくれるように頼んでいた。 ◆◆◆ |
14.大虐殺 ギリシャ軍の将兵は飲みかつたらふく喰らっていたが、アキレウスだけは「まだ弔いが済んでいない」と何も口にしなかった。 しばらくすると、野営陣地のそこここから武器の触れ合う音と、馬の嘶き、そして戦士たちの雄たけびが聞こえてきた。 今日がティティスとの約束を果たす日だったゼウスは、戦争に加わりたがっている神々の参戦を許可した。 トロイア軍ではパトロクロスから奪ったアキレウスの鎧兜を身に着けたヘクトールが将兵らを励ましていたが、アキレウスが近づいてくるのを見ると隊列の後ろへ引き下がった。
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15.復讐 プリアモス王は追撃してくるギリシャ軍からトロイアの将兵が敗走してくるのをスカイア門の望楼から見、門を開けるように門番に命じた。 次の一撃で勝負はつく。 アキレウスはヘクトールの身に着けている鎧兜の弱点を良く知っていた。 ヘクトールの死体はその黒髪を土ぼこりの中に叩きつけられながらトロイアの広い平原をずっと戦車に引かれていった。
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16.葬礼 野営陣地に還ったギリシャ軍の将兵たちはこの日の大勝利を祝ったが、アキレウスはパトロクロスの遺骸を海岸にすえつけさせた。 朝になって、ギリシャ軍は海の近くに火葬壇を造った。
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17.身代金 パトロクロスの復讐が行われてから12日目、プリアモス王は身代金を持って、単身アキレウスのもとへいき、息子ヘクトールの遺骸を貰い受けてこようと思い立った。 二人が足の速い神々の使者ヘルメースの加護を受け、無事にアキレウスの船団までたどり着くと、王は戦車を降り、アキレウスの小屋に入っていった。 私は二度と故郷の土を踏むことはないのだ。父にも息子にも会うことは無い。そしてパトロクロスにも。 二人は一緒に泣き続けた。 「プリアモス王よ、私に会うため、単身敵地に赴いたあなたの勇気に敬意を表します。さぁ、お立ちください、そしてこの椅子に。もう悲しみは忘れましょう。いくら涙を流しても、それで死者が蘇ってくることはないのですから」 トロイアでは9日の間ヘクトールの哀悼が続けられた。 ◆◆◆ |
エピローグ ヘクトールが戦士してのちも戦争は引き続いていた。 アキレウスはギリシャ軍を指揮し、スカイア門の近くで戦っていたときだった。 アキレウスを討ち取ったと自慢していたパリスは、ギリシャ軍の射手が放った矢傷がもとで死んだ。 それでもトロイアは落ちなかった。 ギリシャ軍は中ががらんどうの巨大な木馬を作った。 長い年月の包囲が解けて、トロイアが開放されたことに喜んだトロイア人たちは、海岸の木馬をいぶかしんで見ていた。 さてしかし、ギリシャ軍の将兵たちには未だ試練が残っていた。 長い年月をかけたギリシャ軍とトロイア軍の戦争はこうして終わったが双方が得たものは悲しみと後悔だけだった。 |
◆◆◆了
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