ナワ族の神話

アステカの創世神話は、5つの連続する太陽の時代を語ります。

T.夜 テスカトリポカが支配し、巨人が住んでいたが、テスカトリポカの兄弟のケツァルコアトルがジャガーに巨人を食わせておしまい。
U.空気 ケツァルコアトルが支配し、太陽は風で破壊されてしまう。
この時代の人類はサルに変えられてしまった。
V.火の雨 雨の神トラロックが支配し、太陽は火の雨で破壊されてしまう。
住人達は鳥に変えられてしまった。
W.水 チャルチウートリクエ(水の神でトラロックの姉妹)が支配し、洪水で破壊され、住人は魚に変えられてしまった。
X.地震
(現在)
第4の太陽崩壊後、テオティワカンに集まった神々が創造した。
太陽神トナティウによって支配され、いずれ地震によって滅びるとされている。




世界の初め
大初、世界には何も無く、ただ広漠たる水があった。その中から大地が現れた。

大地が出来ると、人間の姿をした「豹蛇」という男の鹿神と、「虎蛇」という女の鹿神が現れた。二人の神は渦巻く水の中に高くて大きな岩を作ると、その上に美しい館を建てた。岩の頂上には銅の斧を突き立てて大地と天空を分け支えた。

館に住む二人の神の間に、「九蛇の風」と「九洞の風」という二人の男の子が生まれた。二人は立派な若者に成長すると、神々に捧げものをするようになった。

大洪水
◆ある日、大洪水がおこって ほとんどの人々が溺れてしまった時、ティトラカワン神がナタという男と、ネナという女のもとへやってきた。
二人は飲み物をこしらえている最中だったが、
【にしゃだぢ、そんなものこしらえている場合じゃねぇぞ。早く糸杉の木で舟造って乗んねど、また溺れっつまうど】と神は告げた。

さらに、【おい、ナタとネナよ、にしゃだぢはトウモロコシの穂しか食っちゃなんねぞ、わがったな】と言った。

最初、二人は言いつけを守って、穂を食ってしのいでいたが、そのうちに無くなってしまった。
さて、気付くと舟の揺れが収まっている。
下を覗くと洪水が引いていた。
残っている水のなかでは沢山の魚が泳いでいる。
「食い物だべぇ〜」と喜んだ二人はさっそく捕まえて焼いて食った。

すると、天界から見ていたシタリニクエ神とシタラトナク神が驚いてティトラカワン神にチクった。
ティトラカワン神は【こりゃ、にしゃだぢ、何やってんだ!この火は なじょした?】と怒ったので、二人は「食い物が無ぐって、魚を・・・・」

ティトラカワン神は【神々に捧げ物をしないうちに喰ってはなんね】と、魚を犬に変えてしまった。

二人は畏れてすぐに神々に捧げ物をした。
それから多くの子を産んで、新しい人間の祖先に成った。

◆洪水からかろうじて生き残った人々は大きな山や木によじのぼってしのいでいた。
眼下ではさかまく水が耳を聾するばかりに暴れている。
人々は爆流の激しい音におびえていたが、やがて その水も引いていった。

しかし、あるとき助かった人々は不思議な音を聞くようになった。
谷間に向かって大きな声を立てると、あたりの山々から そっくりな声が返ってくるのだった。

「あれは なんだべ?」「化け物が口真似してんだべか?」

元気な若者が勇気をだして山々を探したが、それらしい化け物はいなかった。
人々はその不思議を話し合っていると、ある日 ひとりの年寄りが「あれはな、化け物の立てる声じゃねぇよ。あの大洪水んときの音が山々にまだ残ってんだべな。にしゃだぢが でっけぇ声立てっと、残ってた音がつられて出てくんだべ」と言った。

第5の太陽創生
第4の太陽期が洪水で終わると、また太陽がなくなった。
人々が神々にお願いをすると、メツトリ神が【犠牲者が必要じゃ】と言った。

メツトリ神はナナワトルという者に【にしゃが犠牲になれ】と言った。
ナナワトルは仕方なく 荼毘の火に身を投げた。
メツトリ神も【にしゃだけを死なせはせんぞ。ワシも一緒に犠牲になってやっから】と後に続いた。

人々が東の空を見つめていると、新しい太陽が現れてきた。

さて、新しい太陽が出来ると、神々は【この太陽に命と力を与えねばなんねぇ。ワシらも犠牲にならねばなるめぇ】と言った。

するとショロトル神は【なんでオラだぢまで?いいじゃん、人間の犠牲だげでよ】と言ったが、神々は【んにゃ。太陽はよ、人間の犠牲だげでは強ぐなんねべ?人間だげに任せでいだらばよ、人間が居なぐなっつまうべよ。んだがら、なじょしてもワシらも犠牲にならねばなんねだ】と言う。
ショロトルは【けっ。んじゃ、死にでぇもんだげ死ねや。オラやんだがらな】と言い、神々の元から去った。

しかし、独りになると【仲良ぐしてくっちゃ神々が死んつまぁのが・・・ああ、むずせぇな・・・】と泣きつづけていると、ショロトルの両方の目玉が溶けて無くなってしまった。

ウィツィロポチトリ
トルテカ族のトラン町の近くにコアテペク山があった。
ここに、コアトリクエという寡婦が住んでいた。コアトリクエには娘と息子がいた。

信心深いコアトリクエが丘の上で一心にお祈りをささげていると、空から一粒の美しい珠が落ちてきたので「見事な珠だべ。しまっといて、いつか神様の捧げ物にすんべ」と懐に納めた。

しばらくすると、コアトリクエは身重になった。
夫もいないのに子が出来たのは不思議だったが、恥ずかしさが先にきた。
それを知った娘と息子たちは「おっかぁ!なんて恥知らずなことしただよ!」と詰って辱めた。
コアトリクエはわけもわからず途方にくれていると、あるとき『おっか、おっかぁ』と声がする。
「あれ、なんだべ?」と見渡しても誰もいない。
『オラだべ。おっかぁの腹ん中さいんだ。おっかぁ、心配すっこどねぇがらな。オラが助けてやっから、待ってっせよ』と言う。
コアトリクエはひたすら子が生まれるのを待っていた。
その頃、娘と息子たちは母親が父なし子を産むのが大恥だと思い、母親を殺す相談をしていたが、アウィトリカクは母殺しの大罪を犯すのが怖くなり、母に打ち明けた。
「なじょすんべ。自分の子供に殺されっつまうのなんて、オラやんだ」と嘆き悲しむコアトリクエに、
腹の中の子が『心配しねでいいがら、おっかぁ』と言い、
吃驚して腰を抜かしているアウィトリカクに向かって『あんちゃ、オラの言うことよぐ聞けよ。オラはあんちゃだぢの悪巧みなんて全部知ってっからよ。オラはウィツロポチトリっつって天の神様の子だ。神様が5色の羽根の珠になって おっかぁの腹さ入っただ。おめはこれがらオラの云う事良ぐ守んねばだめだがらな』と言った。
アウィトリカクは何も言えずにただ首を振るだけだった。

さて、そうとは知らぬ他の兄弟たちは、姉娘のコヨルシャウキを先頭にし、手に手に投箭を持ち、あちこちと母親を探し周っている。
ウィツイポチトリは腹の中から、兄アウィトリカクに支持を出していた。
『あんちゃ、奴等はどごさいる?』「もうすぐ こっちゃ来る」
母のコアトリクエは恐ろしさに震えている。
兄アウィトリカクが「ウィツィポチトリ、気をつけろ。コヨルシャウキが先頭だべ」と叫んだ。

その瞬間

神の子は母の身体から 青い楯と投槍を振り回しながら勢い良く現れた。
ウィツィロポチトリは全身美しい彩りで、頭には鳥の羽飾りをつけ、左の足に様々な羽根を纏っていた。

兄や姉たちは「たかが子めらに何が出来る!やっつけっつまえ」と一斉に挑みかかったが、ウィツィロポチトリが身体をひとゆすりすると蛇のような光がほとばしり出て先頭のコヨルシャウキを包むと、一瞬のうちに彼女の身体が微塵に砕け散った。
兄たちは驚き恐れて一目散に逃げ出したが、ウィツィロポチトリは『生みの母親を殺そうとするものは許さんに!』と追いかけた。
兄たちは苦し紛れに湖に飛び込んだがウィツィロポチトリは『覚悟しろ』と投槍を飛ばして兄たちを全滅させた。

ケツァルコアトル
◆火を持たなかった人間達を哀れんだケツァルコアトルは人間達を呼び集めた。

【火はな、血のように赤くて、太陽の光のように明るく、暖かいものだ。肉を焼くと美味いし、腹も壊さぬ。寒いときも楽になるぞ】 そう言うと 神は靴を脱いだ。
それをさぁっと打ち振ると、火がチロチロと燃え出した。

◆ケツァルコアトルはまた恐ろしい力を持っていた。
岩に手を当てると凹んで手の痕が残るし、大きな石を投げ上げて放ると、森という森が平地にかわる。
矢を射るとどんなに太い樹の幹も貫通させてしまう。
ケツァルコアトルが人間達に何かを伝えようとする時は使者を使うが、使者が「叫びの丘」でケツァルコアトルの言葉を口にすると、その声は雷よりも大きく轟くのだ。

◆ケツァルコアトルがトルテカ人の王であったとき、すべてのものたちが幸福だった。

するとアステカ族の神テスカトリポカが羨んで、ケツァルコアトルを苦しめてやろうと考えた。

テスカトリポカは蜘蛛に変身し、ケツァルコアトル王にプルケという酒を勧めた。

王はプルカの酒に溺れ、毎日のように飲み続けていると、王の心が荒んできた。
妃のケツァルペトラトルのことなどすっかり忘れ、淫らな女たちと遊ぶようになり、ついには住み慣れたアナワクの都から立ち退かねばならなくなった。

ケツァルコアトルは愚かなことをした自分を反省したが、『アステカの神に騙されたが、ワシの美しい都をそのまま おめおめと敵の手に渡すのは悔しい』と、数々の宮殿を焼き払い、黄金や白銀の宝物をすべて隠し、ココアの樹を雑木に変えると、ありとあらゆる鳥も追い払ってしまった。
国中は見る影も無く寂びれ、汚くなってしまった。
アステカ族の魔術師たちは驚き呆れて、
「折角の町がこれじゃしょうがない。あんた、戻ってくれば?」と言ったが、王は『ヤダね。太陽がワシを呼んでるしな』と取り合わない。
魔術師たちは「んじゃ、せめて宝物を置いていけ」と言うと、『手前ぇらで勝手に探せば?』と吐き捨てる。
「ココアの樹を戻せ」と言うと『手前ぇらで植え直せ』と笑う。
「鳥は?」と言うと『手前ぇらで呼んで来い』とすたすたと歩き出した。
アステカの魔術師たちは 呆然と見送った。

ケツァルコアトルはタバスコと言うところで蛇の筏に乗り、浪に漂い、東に向かって消えて行った。

◆ケツァルコアトルはこうして自分の国を追われたが、残した国が心配だった。
ある日、共に歩いてきた四人の若者に戻るように命令した。
「王よ、我らはあなたと共に居たいのです」と言う若者たちに、ケツァルコアトルは『どうあっても戻れ。このままでは国は乱れるばかりなのだ』と厳しく言いつけた。
「あなたと永久にお別れするのは嫌で御座います」
『そんなことはない。いつか時がきたら、ワシも戻る。それまで、お前たち、ワシの代わりになっていてくれ』

四人の若者は安心すると「では、それまでのあいだ、我等が国をお守りします」と帰っていった。
そうして、国を4等分にし、ケツァルコアトルの帰還を心待ちにしながら国を治めた。

◆金星・・・・アステカの神に追い出されたケツァルコアトルが自らの身体を荼毘に付すと、灰の中から心臓が天を目指して昇り、金星になった。

 

トラロク
雨の神トラロクの妻はトラソルテオトルという、女神達のなかでも一番美しい女だった。トラロクは妻を心から愛し、片時もそばから離れなかったので、神々は誰も彼女に手出しできなかった。

するとある時、神々のうちで一番力の強いテスカトリポカが「俺が奪い取ってやろう」と言った。

トラロクが下界に雨を降らせるために出かけたすきに、トラソルテオトル女神に言い寄ると、彼女は愛欲と豪奢の女神なので、テスカトリポカのような剛毅な神と一緒になれたら楽しいだろうと思い、とうとう彼の意に従った。

「可愛いトラソルテオトルよ、トラロクが帰ってきたら面倒だ」と言うと、彼女の身体を抱えるとたちまち姿を消した。

館に戻ってきたトラロクは妻が居ないので、神々に尋ねまわった。
「妻の居所を言え、言わないと酷い目にあわせるぞ」と神々を脅したが、神々は顔を見合わせて黙るばかりだったので「片っ端から殺してやるぞ」と叫んだ。

神々は仕方なくテスカトリポカの仕業であることを白状したが、トラロクは彼の名を聞くと血の気が失せた。

どんなに口惜しくても、腹が立っても、トラロクにはテスカトリポカに手出しはできなかった。彼は歯噛みをして立っていたが、やがて肩を落とし自分の館に帰った。

ミクトラン
もしくはミクトランテクトリ。死の世界を司る。
命が尽きたものは誰でも彼の元に黄泉道を通って行くのだ。

しかし、この黄泉道、かなり恐ろしい。
だから人は死んだ人を黄泉道に送り出すとき、幾本かの投槍を持たされるのだ。

あなたは投槍を持って黄泉道を急ぐ。

まず、二つの険しく高い峰が向き合って聳えているところに来る。
どうしてもその間を通り抜けねばならない。
呑気に歩いていると、二つの峰が落ちかかり、あなたの身体を粉みじんにしてしまうだろう。

さて、次はものすごく巨大な蛇が来るものを待ち構えている。
あなたは槍で戦うのだ。

蛇の道を逃れると、今度は一匹の巨大なショチトナルという鰐が大口を開けて襲ってくるから槍で戦え。

さあ、お次は八つの険しい山と八つの乾ききった砂漠を越えねばならない。
しかし 越えた、抜けたと安心するのはまだ早い。
いきなり激しい旋風が襲ってくる。
旋風の切っ先は鋭くて、あなたの身体を切り刻むだろう。

うまく避けて道を急げ。

前方に待ち構えているのはイスプステケだ。
後ろ向きになった鶏の脚をもち、その鋭い爪で死人を掴んでズタズタに切り刻む悪魔だ、気をつけろ。

お次はネシュテペワだ。
こいつは空中に灰を撒き散らして目潰しにかかるぞ。
もうすぐだ、槍を使え!

という、艱難辛苦ののち、やっと冥府の門の前・・・・

あなたはミクトランの御前に引きずり出され、許しを得られれば冥府居住許可が降りるのだ。

お疲れさん。

乙女の犠牲
アステカ族がメキシコに都を造ったとき、戦いの神ウィツィロポチトリのために祭殿を建てた。
ウィツィロポチトリは時々犠牲を求める神である。
たいていは戦の捕虜を犠牲にするが、国の大事のときは国中でもっとも身分の高い者を犠牲に求める。

あるとき神は巫女の口を借りて、【王女を捧げよ】と告げた。

アステカの大王に娘がいなかったのか、いても犠牲に捧げるのが嫌だったのか、王はコルワカン王に使いを立てて、「御身の娘御をウィツィロポチトリの母神として仕立てて崇めたいので頂きたい」と言わせた。
コルワカン王は我が娘が崇められることに誇りを感じ、喜んでメキシコの都に送った。

アステカの大王は直ちに犠牲の準備を始めた。
王女は生きながら皮を剥がれ、その皮はウィツィロポチトリ神の役をする神官の衣に仕立てられ、身体は美しく飾り立てられて神殿の犠牲にさ捧げられた。

さて、コルワカン王は愛娘の晴れの姿を一目見ようとメキシコの都にやってきた。
王は神殿に招きいれられ、人々がひれ伏す間から愛娘の姿を探した。
松明の薄暗い灯りに見えたのは、軍神ウィツィロポチトリに扮した神官だった。
そしてその衣が自分の娘の皮であることに気がつくと、コルワカン王は恐ろしさと悲しさで叫びだし、そのまま飛び出して気が狂ってしまった。

ナワ族の神話 ― 了